約 1,746,362 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1220.html
前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編 「もう半日以上経っているぞ?魔法衛士隊の連中は化け物か」 「グリフォンと馬では勝手が違うのかも知れませんね……」 「そういうものかね」 「知りませんよ……」 「……大丈夫かね?」 ギーシュが言ったとおり、半日ほど馬に乗りっぱなしである二人であった。 元々乗馬の経験があるギーシュはまだ何とか体勢を保っていたが、 ルージュはと言うと、完全に馬の上でぐったりしている。 ギーシュはそんな様子を見て、不思議そうに言った。 「君はもっと体力がある方だと思ったがね」 「……何でです?」 「ちょっと剣を振ってみたんだがね、あれは結構疲れた」 「……そうですか」 「……本気で疲れてるようだね……」 そこに、ワルドの怒鳴り声が聞こえた。 「早くしないと、置いていくぞ!」 ……彼にしては珍しく、少し苛ついた。 「……『デュレイオーダー』」 グリフォンの速度を、少しずつ下げていった。 そのうち、ろくに操れていない馬の方が早くなる。 ルージュは追い越して、距離がある程度経つと息切れしながら、 何とか出せる限りの大きな声を出した。 「早くしないと……置いてきますよ……」 そのまま走り去る。 まぁ、『デュレイオーダー』は時間が経てば解けるし、 グリフォンの元の速度が馬より速いから、さして問題ではないのだが。 事実、その後ルージュの馬はワルドのグリフォンにあっさり抜き返された。 まぁ、そんな事をしていたので、馬を乗り換えながらも、 夜深くにようやくアルビオンの玄関口たるラ・ロシェールについたのだが。 「ゼェ……ハァ……」 「本気で辛そうだね……君は……」 「まだですか……」 「それはもうかれこれ12回聞いた気がするんだが…… だけど、もうすぐ着くよ」 その言葉にルージュは顔を上げて周りを見回した。 港町と聞いていたが、山だらけである。 「……シップがないのに、高地に港町があるんですか?」 「シップ?なんだねそれは」 「……船です」 「別におかしく無いじゃないか」 「……?」 その時、彼らめがけて崖上から火のついたたいまつが投げ込まれる。 馬がそれに驚き、暴れ出した馬にギーシュとルージュは捕まっていられなかった。 その後数本の矢が飛んでくると、ギーシュが叫ぶ。 「奇襲だ!」 「……」 「ブルー!寝てないで応戦したまえ」 「もう止めてくださいギーシュ……僕のLPはもうゼロです」 「ゼロになったら死ぬんじゃないのかね」 「宿屋に行けば大丈夫です……というわけで後は任せました……」 「いや、そういうわけに――」 矢が横をかすめて飛んできたので、ギーシュは黙り込む。 「むう、どうも一人でなんとかしなきゃならないみたいだね……」 ギーシュはそう言って矢の飛んでくる方向に大体の当たりを付け、 錬金で壁を作り出し、そこに隠れた。 「さて、近づいてきてくれれば僕でもどうにか出来るかも知れんが、 このままもう一回たいまつを投げ込まれたらどうしようか」 と、そこにワルドが戻ってくる。 飛んできた矢を、竜巻を作り出してはじき返した。 「子爵!」 「野党か山賊の類か?」 横で呆然としていたルイズが、続く。 「アルビオンの貴族派ってことは……」 「貴族ならあんな手は使わん」 その言葉に、寝ていたルージュは少しの違和感を感じた。 (そう言えば、今朝方も変だったな。 なんであの紹介でルイズの使い魔だと解ったんだ?) あの説明ならば、ギーシュと『その』使い魔のブルー、と捉えてもおかしくはない。 だが、それは個人の捉え方。どう解釈してもおかしくはない。 しかし。 (貴族派、と言ってもまさか全員が貴族というわけじゃないだろうし) そして思考をより深くしようとして、 どこからか聞こえてきた翼の音に、思考を中断させる。 崖の上から悲鳴が聞こえてくる。恐らく、たいまつや矢を飛ばしてきた者達だろう。 暗くて遠くなので良く見えないが、数回雷光が閃くと、その男達の姿が見えた。 「『風』の呪文……にしては妙だな」 雷撃に撃たれた男達ががけの上から転がってくる。 崖の上に何かが降り立つと、月からの逆光でシルエットが浮かび上がる。 「あれって……」 それは再び飛び上がると、此方に向かって飛翔してきた。 近づいてくると、その姿と、上に乗った二人組が見える。 「タバサ!クーン!後キュルケ」 「なんであたしはついでなのかしら?」 「何しに来たのよ!?」 「追ってきたのよ。思ったより時間がかかったけどね」 キュルケは雷竜の背中から飛び降りると、 転げ落ちていた男達を足で軽くこづく。 「で、こいつらどうするのよ?」 「僕に任せてくれたまえ」 と、ギーシュが一歩前に進み出る。 「君たちは何だね」 「ただの盗賊だよ」 ギーシュが振り返る。 「だそうだ」 「……いや、色々と突っ込むところが多すぎて逆に……」 「やるなら徹底的に」 といい、今度はタバサが前に進み出る。 「なんだ、今度は嬢ちゃんか、俺達はただの盗賊だって――」 返事はせず、タバサは小さく呟き、杖を振る。 幾つかの氷の矢が、自称盗賊達をかすめて地面に突き刺さる。 「……わ、解った。酒場で酒を飲んでたら、男と女の二人組に雇われたんだ」 「詳しく」 「女の方はフードを被ってたからよく解らねえ。 男の方は仮面を被っててよくわからなかったが、そうだな……身長はそこの兄ちゃんぐらいだな」 と、ワルドの方を見やって言う。 「それと、二人ともメイジだったな」 「それだけ解ればいい」 タバサが振り返る。 それに対し、ワルドが言う。 「……ふむ。捕縛したい所だが、時間がない。 ここは放置して先を急ぐとしよう」 と、ルイズを連れてグリフォンにまたがる。 ギーシュとルージュも馬に乗った。 彼らが進むその先に、ラ・ロシェールの灯が煌めいていた。 彼らが去った後。 「畜生、割の良い仕事だと思ったら、相手がメイジなんて聞いてねえぞ!」 「あんな人数のメイジを相手なんて、金貨200でも足りねえよ……」 と、そこに白い仮面を付けた男が現れる。 男達のうち一人はそれに気付くと、ぶっきらぼうな口調で言う。 「おい、いくら何でもメイジ相手は無茶ってもんだろう、旦那よ」 「そうか、だがまだ働いて貰うぞ」 「あぁ?俺達は今さっきガキのメイジ一人にあしらわれたんだぞ? こんな仕事やってられるか!降りるぞ!」 「そうか」 冷たく言うと、男は腰に下げた紅い剣を抜きはなった。 「な、何だ、やろうってのか?」 「逃げれば殺すと言っただろう」 「へ、へへ。剣を使うって事はてめぇメイジじゃねぇな。 この人数相手に勝てると思うのか!?」 と、周囲に寝転がっていた男達が立ち上がり、各々の獲物を手に取る。 「そうだ、てめえから金を奪えば良いじゃねえか。 まさかあれだけって筈もないだろ……やっちまえ!」 男達が、仮面の男に武器を構えて駆ける。 仮面の男はそれを平然と眺めて、手にある剣を一閃した。 剣がふくれあがった。そう表現するのが一番正しい。 紅く透き通った巨大な刀身が仮面の男を中心に振り回されると、 男達が身体を真横に両断される。 「……な、なにが…………は」 胸の辺りを切断された男は、最後の吐息を漏らすと、 それ以上話す事は出来なかった。 仮面の男が、その場を立ち去る。 後には、骸だけが残った。 『女神の杵』亭という、結構豪華な宿に泊まる事になった一行は、ぐったりしていた。 いや、どちらかというとルージュのみがぐったりとしていた。 ギーシュは、ワインを飲んでくつろいでいる。 キュルケはタバサに話しかけている。タバサは本を読んでいる。 つまり会話が成り立っていない形になる。 ルイズはと言うと、ワルドと共に『桟橋』に乗船の交渉に行っている。 ルージュが机に寝そべったまま、ギーシュの方を向き、聞いた。 「ギーシュ、さっき船がどうとか言ってたよね?」 ギーシュは、口に含んでいたワインを飲み込む。 「確かに言ったね」 「高地にあるって事は……まさか飛んだりはしない?」 「飛ぶに決まってるじゃないか。アルビオンに行くのだから」 と、そこでルイズとワルドが帰って来た。 一同が集まっていた卓の空いている席に座る。 「アルビオンへの船は明後日にならないと出せないそうだよ」 「一刻を争うのに……」 「良いじゃないですか、無理に急いだって良いことはありませんよ」 ルージュが言うが、その様子を見てると誰もが同じ感想を抱く。 休みたいだけじゃないのか?そんな視線に晒されても彼は動じない。 キュルケがそこで話題を変える。 「アルビオンに行ったことはないからわかんないけど、 明日は船が出せないの?」 「明日は月が重なるだろう?その翌日に、アルビオンが最もラ・ロシェールに近づくのだ」 そして、三つの鍵を机の上に置いた。 「今日はもう休もう、部屋をとっ……ってあれ?」 鍵がいつの間にか二つになっている。 見ると、ルージュが既に部屋のある上への階段を上っていた。 ワルドはそちらを見てから、もう一度卓についている者の方を向く。 「……キュルケとタバサ、彼とギーシュ、僕とルイズが相部屋だ」 前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9452.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 幕間その十「歴史の真実と謎」 ガリア王国が送り込んできた恐るべき超古代怪獣軍団は、ウルティメイトフォースゼロと ウルトラマンティガに変身した才人の活躍によって撃滅された。しかし、これはガリアとの 真の戦いの、ほんの前哨戦でしかなかったのだ。 ヴィットーリオは即位三周年記念式典で、ガリアへ対する“聖戦”を宣言したのだ。 「我が親愛なるロマリアの民、及び始祖と神の僕の諸君。此度は北方より来たる悪魔の軍勢が 神の遣わした戦士たちにより退けられ、この祝祭の席を開けたことは真に幸いです。……しかし ながら、あの悪魔どもは悲しいことに、我々と同じ人間の手によってけしかけられたものなのです」 ヴィットーリオの演説に、集ったブリミル教の信徒は一斉にどよめいた。 「その黒幕とはガリア、悪魔を操り神に仇なす異端の名はガリア王ジョゼフ一世。そうでなければ、 あの悪魔どもがガリアをただ通過してこのロマリアの地に侵攻してくる理由がありません。また、 ガリアの異端どもはエルフとも手を組み、我らの殲滅を企図しているのです」 信徒たちに動揺が走る。ヴィットーリオの言には確たる裏づけが欠けているが、先ほど 怪獣たちの脅威に晒されて不安と恐怖のどん底にあった民たちは、その反動もあって面白い ほどに鵜呑みにし、ガリアに対する怒りに燃え上がった。 「最早悪魔の力を行使し、我が物顔に我々の土地と生命、そして信仰を蹂躙しようとする 異端の陰謀を許してはおけません。わたくしは始祖と神の僕として、ここに“聖戦”を 宣言します」 そのひと言により、ガリアとの戦端がはっきりと切って落とされてしまったのであった。 ……アクイレイアのルイズたちがあてがわれた客間では、ロマリアの耳がないことを確認 してから、ルイズがそのことに対しての苛立ちをぶちまけた。 「何が陰謀を許してはおけない、よ。陰謀を張り巡らしていたのは自分たちの方じゃない! あんな奴の持ちかけた話に乗っかった自分を呪いたいくらいだわ!」 ルイズの格好はロマリアから与えられた巫女服ではなく、普段の学生服だ。才人から、 地球へのゲートをくぐろうとしたら撃ち殺されていたという話を聞いた途端に、怒り心頭して 巫女服を捨てたのであった。曰く、もうこんなものに袖を通していられない、と。 「ガリア王をおびき寄せて廃位に追い込むなんてのも、こっちを乗せるための建前に 過ぎなかったんだわ。この状況こそが本当の目的……。そのために国境付近にあらかじめ 軍を配備して、ガリアを挑発した。何が“人間同士の戦火を止める”よ! そのために 戦火を起こすなんて、本末転倒じゃない! ここまで来たらエルフとの交渉なんてのも 信用ならないわ!」 才人はヴィットーリオへの怒りを喚くルイズにうなずきながらも警告する。 「気をつけろよ。あいつらは異常だぜ。おまけにその異常さに気づいてて、しかも肯定してやがる。 一筋縄じゃいかないぜ」 「サイト、やっぱりあんたは帰るべきよ。こんな世界につき合うことはないわ。向こうは あんたを生かして帰さないつもりみたいだけど、ゼロに変身さえしてしまえばどうしようも 出来なくなるわよ」 改めて才人を説得するルイズだったが、才人はきっぱりと言った。 「見足りない。だからまだ、帰らない」 「何を?」 「お前の笑顔」 そのひと言にルイズは言葉の通りに真っ赤になり、照れくさいやら嬉しすぎるやらで ぎくしゃくとした動きをした。 そんなところに口を挟むゼロ。 『いちゃついてるとこ悪いんだがよ』 「い、いちゃついてなんかないわよ!?」 『ガリアとロマリアのことは一旦置いておいて、そろそろ才人が見たっていう六千年前の 夢のことについて話し合おうぜ。きっとかなり重要なことに違いねぇ』 この客間には今、ミラーとグレン、そしてミラーがシエスタから腕輪を借りてきたという 形でジャンボットもいる。彼らはこれから、才人の夢のことについて相談と会議を始めるのだ。 話し合いの席をミラーが仕切る。 「まずはサイト、改めて確認します。あなたが見た夢というのは、始祖ブリミルと初代 ガンダールヴが出てくる内容で間違いないですね?」 「ああ」 はっきりと肯定する才人。 「初めは単なる夢かと思ったけど、やたらとリアルだったし……それに、夢と同じように現実に 俺がウルトラマンティガに変身したんだ。今はほんとに時間をさかのぼったとしか思えねぇや。 今はもうティガに変身できないけど……」 才人がゼロと再び融合してから、スパークレンスはいつの間にか消えてなくなっていた。 恐らく、ティガはもう自分の元からは去ったのだろう。きっと、才人を助けるという役目を 終えたからだ。 これに反論するルイズ。 「でもおかしいじゃない。あんたの身体はずっとこの現代の時間にあったままだったんでしょ?」 「ジュリオの奴がずっと監視してたみたいだからな。あいつが嘘を言う必要はないだろ」 「それじゃあ過去に行くなんてこと出来ないじゃないの。変な言い方だけど……現代と過去の 二つの時間に、同時に存在するなんて」 そのルイズの意見についてジャンボットが論ずる。 『これは憶測に過ぎないが、サイトは精神だけが過去へ移動したのではないだろうか』 「精神だけ?」 『そうとすればつじつまが合う。精神が今の時間にないのならば、サイトがずっと眠ったまま だったのも当然となる』 「いや、いくら何でもそれは無理があるんじゃ……」 半信半疑のルイズだが、ゼロはジャンボットを支持した。 『ウルトラ戦士の周りじゃあ奇跡的な出来事がよく起こるもんだぜ。俺自身、何度か経験がある』 「奇跡ってそうそう起こらないから奇跡って言うんじゃないの……?」 冷や汗を垂らすルイズであった。 ここでグレンが話題を切り換える。 「難しいことは分かんねぇけどよ、今重要なのはサイトが実際過去に行ったかどうかじゃ ねぇだろ? サイトの体験したことが真実かどうかだ」 重々しくうなずくルイズ。 「そうね……。仮にサイトの見たものが全て事実だとしたら、これはハルケギニアで語り 継がれた歴史がひっくり返るほどの大発見よ。始祖ブリミルがエルフを使い魔にしてたなんて!」 興奮するルイズ。それはそうだ。エルフと言えば人間の仇敵であり、始祖ブリミルの最大の 敵だった悪魔。その教えが、完全に否定されるのだ。 才人が後を引き継ぐ。 「しかも六千年前の時点で既に怪獣はハルケギニアにいたんだぜ。そしてブリミルとエルフは 一緒にそれに立ち向かってた。ほんとに、今まで聞いたことと丸っきり真逆だ」 「でも、それをどうやって事実か確かめればいいのかしら……」 「そうだ、デルフに聞いてみよう」 才人はデルフリンガーを鞘から引き抜いた。デルフリンガーが初代ガンダールヴの得物 だったのならば、当然当時のことを知っているはずである。 「よ。伝説」 「やぁ相棒。ようやく俺の存在を思い出したってのか。全く薄情なこって」 「ごめんごめん、忙しくて気が回らなかったんだよ。それで、俺が見たものってほんとのこと? それともよく出来たフィクション?」 「ほんとのこったろ」 デルフリンガーのあっさりとした肯定に、この場の全員が目を丸くした。ルイズはデルフ リンガーをなじる。 「あんた、何でそんな大事なことを今まで黙ってたのよ!」 「黙ってた訳じゃねぇよ。忘れてたんだ。でも、相棒の言葉で思い出したんだ。そういや、 そうだったなって」 「じゃあ思い出したこと、全部話なさいよ!」 「無理だよ……。何せ断片的でな。つまらねぇことなら割と思い出せるんだが、肝心なことは サッパリさ」 「ブリミルさん、何かニダベリールとか名乗ってたよ」 「多分、若い頃の名前だな。そん時は俺はまだ生まれてなかったから知らねえけど」 「そういや、あの時お前はどこにもいなかったな」 相槌を打つ才人。ここでミラーが一旦注目を集める。 「これで裏づけが取れましたね。サイトが見たものは真実だった。……ですが、そうとすると 別の疑問が生じます。それは、何故その内容が今の世に全くといっていいほど伝わっていないのか」 「だよなぁ~。怪獣が元々この星にいたなんて話、今ここで初めて聞いたぜ」 腕組みしながらうんうんとうなずくグレン。中にはソドムのように伝説の巨竜という形で 存在が言い伝えられていた例外もあるが、そんなのは極一部だ。ゼロたちはこれまでずっと、 ほとんどの怪獣たちは次元震の影響でハルケギニアに侵入したものだと思っていた。 ジャンボットは言う。 『正確には、元からいた訳でもない。六千年前、ブリミルたちとほぼ同時期にどこかから 出現するようになったみたいだな』 「そのどこかってどこだよ」 『それが分からないから、今こうして話し合っているのだろうが』 グレンに手厳しく突っ込むジャンボット。ミラーは顎に指を掛けて考え込んだ。 「始祖ブリミルは元々ハルケギニアの民ではなかったのですよね。“虚無”の力で、どこかから 移住してきた……。それと怪獣の出没が同時というのは、無関係ではない気がします。始祖の 元いた土地とはどこなのか……それが分かれば答えに一気に近づけるのでしょうが」 「でも始祖ブリミル降誕の地、つまり聖地はエルフに牛耳られてて、近づくことすら出来ないのよね」 ため息を吐くルイズ。その聖地を取り戻すことが、ヴィットーリオの最終目的のようだが。 ゼロがミラーに提案する。 『ミラーナイト、お前の能力で探りを入れられねぇか? 鏡の世界からエルフの土地を覗き込んでさ』 「やってみましょう」 「俺としては、怪獣もそうだけど、ウルトラマンが六千年前のハルケギニアに来てたって ことの方が興味あるな。それも一人や二人じゃなかったみたいだぜ」 才人が少しわくわくしながら言った。それに同意するゼロ。 『俺も同じウルトラ戦士として興味深いな。けど、それも怪獣の存在と同じように伝承されて ないみてぇだな』 「一応、始祖ブリミルの伝説には、始祖は神の遣わした天使とともに悪魔と戦ったとあるわ。 わたしはずっと、悪魔っていうのはエルフのことだと思ってたけど……」 顔をしかめるルイズ。ここまでの話から考えるに、悪魔の正体とは怪獣だったのだろう。 「でも、この程度の表現でしか言い伝えられてないってのはちょっと奇妙よね。いくら六千年の 隔たりがあるとはいえ、もうちょっと具体的に伝承されてても良さそうなものなのに」 とのルイズの言葉に、ミラーはしばし考え込んでから、言い放った。 「もしかしたら、長い時間の中で自然に忘れられたのではなく、何者かが情報を隠蔽したの ではないでしょうか。だから後世に正しい形で伝わらなかったのでは」 「えぇ!?」 「そもそも始祖の祈祷書、“虚無”の呪文書も、指輪がなくては読めないという注意書きが、 読めない文の中に含まれていたのでしょう。普通、そんな致命的なミスをすると思いますか?」 内心同意するルイズ。これまでもいささか妙なことだとは思っていたが……誰かが“虚無”を 目覚めさせないように、そのように細工したとするなら納得できる話だ。 「デルフリンガーもほとんどのことが思い出せないのも、ひょっとしたら記憶を封じられて いるからかもしれません」 「ってことはこいつをいじったり何かしたら、記憶が一辺に思い出させられるかもしれねぇってか?」 「おいおいやめてくれよ。変なことすんのはさ。頭はねえが頭ん中いじくられんのはさすがに 御免だぜ?」 グレンの提案を拒否するデルフリンガー。ジャンボットも同意する。 『デルフリンガーは生物でも、電子頭脳でもない。私たちには未知の力で生命を維持している。 下手なことをしたら、デルフリンガーという存在そのものが消えてしまうかもしれん。危険すぎる』 「だよなぁ。さすがに仲間の命に代えられることじゃねぇや」 デルフリンガーの記憶を無理に呼び覚ますという手段は却下される。しかしそうすると、 現状ではこれ以上謎に近づく道はない。 議論が煮詰まってきたところで、ゼロが取り仕切った。 『これ以上俺たちで話し合ってても先には進まねぇ。この先ハルケギニアでの冒険を続けりゃ、 答えに近寄れるものも見つけられるだろう。それまでは放置だ』 「そうね。とりあえずは、今目の前にある問題を解決するところから始めましょう」 「ああ。まずはガリアをぶっ倒して……それからロマリアの聖戦とやらを止めてやるんだ」 ゼロの出した結論にルイズ、才人と賛成し、全員の気持ちが一致した。 これから彼らは、再び起こってしまった戦乱と、争いを引き起こす目論見を阻止するために 行動することを、ここに決意したのであった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9209.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第六十六話「よみがえれ才人」 凶剣怪獣カネドラス 隕石小珍獣ミーニン 登場 「ゲエエオオオオオオ!」 トリスタニアは、今まさに、またも怪獣に狙われる危機の真っ只中にあった。 今度の怪獣は、前に湾曲した長い一本角から危険な輝きを放つ、見るからに恐ろしげな怪獣。 その名はカネドラス。宇宙を渡り歩き、生命のある星を見境なく襲撃する、外見に負けないほどの 凶悪怪獣である。それがトリスタニアに入り込んだら、世にもおぞましい惨劇が発生するだろう。 しかしカネドラスは、トリスタニアを囲む平原で立ち往生していた。その理由は、彼の前に 精悍なる勇士が立ちはだかっていてそれ以上進めないからである。 銀色と緑の輝きを反射する巨躯の勇士は、もう皆さんご存知のミラーナイト! 「ゲエエオオオオオオ!」 カネドラスはハルケギニア侵攻を邪魔するミラーナイトを排除しようと、猛然と突っ込んでいく。 しかし力任せの突進など、流麗なる技の使い手であるミラーナイトの前では無謀無策でしかない。 『はぁッ!』 事実、ミラーナイトはカネドラスの突進の軌道を見切り、相手の喉に手刀を入れて弾き返した。 急所に鋭い一撃をもらったカネドラスはむせながらよろよろ後退する。 「ゲエエオオオオオオ!」 接近戦が駄目ならとばかりに、カネドラスは怪獣らしく口から高熱火炎を吐き出した。 大地も焦がしそうな灼熱の炎が迫る! しかしミラーナイトは防御にも優れる。己の前にディフェンスミラーを展開し、火炎を易々と 受け止める。カネドラスの攻撃は、これも通用しない。 「ゲエエオオオオオオ!」 ここに至り、とうとうカネドラスは自身の最大の武器の使用にふん切った。フック状の両手を、 頭頂部の一本角に沿える。 すると、角がカネドラスの頭から離れて回転しながら宙を飛び始めた! このアイスラッガーよろしく空を飛ぶ角こそが、カネドラスの一番の武器、ドラスカッター。 切れ味はビルも簡単に真っ二つにするほど鋭く、かつ速い上に自動でカネドラスまで戻るので 何回でも使用できる、殺人ブーメラン。かつてウルトラマンレオは自力での攻略が難しく、 専用の特訓を行ったことがある。それほど危険な武器なのだ。 『むッ!』 ドラスカッターはディフェンスミラーをも切断する。ミラーナイトも危険を感じ、咄嗟にジャンプして カッターをかわした。だがドラスカッターはカネドラスの頭に戻り、カネドラスはもう一度投げつける。 この間髪を入れない連続攻撃で敵を消耗させていき、最後にはとどめを刺すのだ! ミラーナイト、危うし! が、ミラーナイトの実力はドラスカッターをも超えるものであった! 『やッ!』 ミラーナイトは宙返りしながらカッターをキャッチ! 真剣白刃取りだ! 武器を奪われた カネドラスは慌てふためく。 『とぁッ!』 しかもミラーナイトは宙返りの勢いを活かしながらカッターを投げ返した。軌道の変わった カッターは、カネドラスの眉間に突き刺さる! 「ゲエエッ!」 『シルバークロス!』 着地したミラーナイトはすかさず必殺のシルバークロス。その攻撃により、カネドラスの方が 四つに切断されて絶命した。 今日も見事凶悪怪獣をやっつけて、帰還していくミラーナイト。それをトリステインの 魔法衛士隊が見送っている。 「今回もウルティメイトフォースゼロに助けられましたね」 「うむ。我らがあの怪獣の相手をしていたら、多大な被害が出ていたことだろう。彼らには 真に世話になっている」 部下の一人の言葉に、隊長がうなずいた。カネドラスのカッターブーメランは実際、脅威であった。 仮にミラーナイトが来なければ、恐ろしい数の死人が出ていたことだろう。皆、ウルティメイトフォースゼロの 活躍に感謝している。 ……だが、誰かが不意にこんなことを漏らした。 「けど、今日もウルトラマンゼロじゃなかったな……」 その一言で、騎士たちは一様に重い空気に包まれた。 「……ゼロは、やはりあの戦いで死んでしまったのだろうか……」 「そうなら、ゼロを殺したのは俺たちだ……」 「俺たちが愚かだったから……大恩人のゼロが……」 次々に後悔の言葉をつぶやく部下たちを、隊長が一喝する。 「やめんか! 今更悔やんだところで何も始まらんだろうが!」 「しかし、隊長……」 「……心苦しいのは私とて同じだ。しかし、我らはこのトリステインの民の盾。やるべきことは 命を守ることだけ。くよくよして、腕を鈍らせる訳にはいかん」 部下を諭した隊長は、もうひと言つけ加える。 「それに、ゼロが死んだとは決まっておらん。あれほどの戦いだったのだ。負傷が激しく、 どこかで休息を取り続けているだけかもしれん。……それを始祖ブリミルに祈ろうではないか」 「そ、そうですね……!」 「始祖ブリミルなら、俺たちの願いを聞き届けてゼロをお救いくださるかもしれない……!」 魔法衛士隊はどうにか一抹の希望を抱き、トリステインの王城へと帰投していった。 ……アルビオンとの戦争……いや、降臨祭の惨劇から既に二週間が経過している。その間、 ウルトラマンゼロの姿を見た者は一人もいない……。 ヤプールとゼロキラーザウルスの消滅後、トリステイン・ゲルマニア連合と神聖アルビオン共和国との 戦争は、意外な形で幕を閉じた。 陣営の双方ともに戦い気力など残っておらず、途方に暮れていたところ……突如ガリアの大艦隊が アルビオンに上陸。その圧倒的武力を背景に、アルビオン軍を瞬く間に制圧。戦争の終結を宣言した。 それまで一切の動向を見せなかったガリア軍が「勝者」となったのである。 ガリア軍はそのままロサイスに駐屯、戦争の後始末を開始した。そして二週間経った現在、 臨時の調停のテーブルを開こうとしていた。当然アンリエッタもそれに出席する。 時代がそうやって動いていく中、ルイズは……魔法学院にも帰っていなかった。 ルイズはあれ以来、ロサイスの宿の一室にずっと閉じこもっていた。本当なら、最後に才人といた シティオブサウスゴータがよかったのだが、サウスゴータはゼロキラーザウルスに破壊し尽くされて、 街中の店が未だ閉店していて、復旧の目途も立っていないのだ。 ルイズは二週間経った今も、トリステインに帰国しようともしない。学友らや、実家、 ミラーナイトらからの説得にも全く耳を貸さず、ふさぎ込んだままだ。ここで帰ったら、 才人を置いていってしまうとでも言うかのように……。 今のルイズの心にあるのは、後悔。それだけだ。どうして戦争をしてしまったのか。どうして父の 忠告に耳を貸さず、参戦したのか。どうしてつまらないことで意地を張り続けたのか……。自分が 積み重ねてきたこと全てが、ここに才人がいないことにつながっているように思えて、ずっと暗い 気分の中にあり続けている。せめて何か一つだけでも違っていれば、こんなことには……。 ゼロが、才人が死んだなどと……信じられない、いや信じたくない。しかし完全に否定することが 出来ない。生きているのなら、いつものようにすぐに自分の元へ帰ってくるのではないか。 それがないということは……。絶対に認めたくないことだが、その考えを追い払うことが出来ないことが、 余計に暗い気持ちに拍車をかける。 「ばか。あんなに、名誉のために死ぬのはバカらしいなんて言ってたくせに……、自分でやってちゃ 世話ないじゃないの」 ルイズが今日も陰鬱として、ベッドの上に座り込んでいると……不意に、部屋の扉がノックされた。 いつもはノックなど無視するルイズだが、今回は違った。初めに長く二回、それから短く三回……。 それは古くからの友の合図だった。 ずっと絶望の淵にあったルイズは一瞬我に返り、扉に駆け寄って開ける。そこに立っていたのは、 果たしてアンリエッタ。 「ルイズ、二週間ぶりですね……」 「姫さま!? ど、どうしてこんなところに……」 驚いたルイズは、はっと自分の状態に気がつく。丸二週間、ろくに身だしなみをしていないので 髪はぼさぼさだ。 「い、嫌だ。わたし、こんなひどい姿で……」 「どんな姿だろうと、構いませんわ。わたくしとあなたの仲ではありませんか」 部屋の中に入ってきたアンリエッタは、誰の聞き耳もないことを確かめながら語る。 「戦争を収めたガリアが、各国の代表を招いて調停の会議を開くのです。それに出席するついでに、 あなたがアルビオンに留まっていると聞いて、こうして訪ねました」 確認が終わると、アンリエッタは……バッとルイズに泣きついた。 「ああ、ルイズ! わたくしのお友達! わたくしは……何と恐ろしいことをしてしまったのでしょうか!」 「えッ!? ひ、姫さま……?」 突然のことに面食らうルイズ。だがアンリエッタは構わずに、己の悲しみを吐露する。 「戦争の終結後……枢機卿にある書類を見せられました。それは……わたくしの推し進めた戦争で、 戦死した者たちの名簿です」 戦死、と聞いて、ルイズは息を呑んだ。 「枢機卿は、わかる限りの者の名前を記してあると申しました。……あまりにも多くの人の名前が、 そこにありました……。全ての名前を読み終わった時には、夜が明けていたほど……。そこで愚かな わたくしは、ようやく己のしでかしたことの重さに気づいたのです……取り返しのつかないことをした、と……!」 アンリエッタは押し殺した声で、その人生の中で一番嘆く。 「わたくしが、彼らの命を奪ったのです……! ああ、わたくしは何度地獄の業火で焼かれれば 足りるのでしょうか……」 「し、しかし姫さま……姫さまがアルビオン進撃をお決めになったことで、悪しき侵略者を このハルケギニアより追い出すことに成功したではありませんか」 アンリエッタがあまりに嘆き悲しむので、ルイズは自分の心情を抑え、彼女を励ました。 しかし、アンリエッタは首を横に振る。 「それは間違いです。ヴァリエール公爵……あなたのお父上から呈された苦言の通り、専守防衛に 努めていても、それは出来たはずなのです。それなのに侵攻を押し通したのは、ウェールズさまを 利用した者たちへの報復……たったそれだけの理由でしかなかったのです。己のちっぽけな 感情一つのために……君主として守らなければならない民たちを、最もやってはいけない、 怪獣たちの犠牲にしてしまいました……」 ひたすら自分を責めるアンリエッタを慰めようと思ったルイズだが、何の言葉も出てこなかった。 民が超獣に殺される様を、彼女自身の目で見ているはず。何を言ったところで、その悪夢の記憶を 紛らわすことなど出来まい。 「……名簿の最後には、あなたの使い魔さんの名前もありました。彼までも犠牲にするなんて…… ずっと、ゼロとしてわたくしたちを助けて下さっていたお方を……」 そのひと言を聞き、ルイズは唖然とする。 「姫さま……サイトのことに気がついていらっしゃったのですか!?」 「グレンという、異世界からのウェールズさまの救世主と非常に親しいあなたたちを見ていれば、 そのくらいは予想がつきます。……ああ、わたくしははるばる異世界からわたくしたちのために 戦ってくださった彼らまでも、復讐の道具にしてました……。その罪を贖う方法すら、わたくしには 見当がつきません……」 アンリエッタはひたすら泣き続ける。彼女が抑え切れない感情を吐き出す様子を、ルイズはただ見守り続けた。 やがて涙腺が枯れ果てると、アンリエッタはようやく落ち着いて顔を上げる。 「……失われた命は、もう戻りません。それだけは、この底なしの愚か者のわたくしでもわかります。 その贖罪になるとは思えませんが……わたくしは、王宮中の王家の財産を処分してお金に換え、 戦死者の遺族への弔意にあてました」 それを聞いて、再度驚愕するルイズ。 「お、王家の財産を!? 真ですか!?」 「当然です。それでも飽き足らないことを、わたくしはしたのだもの……。残したのはこの王冠だけよ。 これがないと、誰もこんな愚かなわたくしを、王とは認めてくださらないでしょうから」 アンリエッタの言葉に嘘など一つもないことを感じ取って、ルイズは恐れおののいた。 戦没者のために、そこまでする王など歴史上一人もいない。命を奪う意味をまるで理解しない者たちばかりだ。 その中でただ一人、命の重みを知る彼女こそが、真の王……。ルイズはそう感じた。 「このあとの会議でも、わたくしはトリステインの利益を最大限に得ようと思ってます。 今日はあなたと話せてよかった……。そのための気力が湧いてきましたわ」 「ひ、姫さまのお役に立てたのならば、幸いです……」 若干気圧されつつも頭を垂れるルイズ。そんな彼女に、アンリエッタは指摘した。 「ねぇ、ルイズ……あなたは、いつまでここに留まっているのかしら?」 「え?」 「わたくしが偉そうに言えたことではありませんが……いつまでも同じ場所で立ち止まってても、 何も始まらないわ。悲しみに押し潰されてしまいそうで、気持ちを整理する時間も必要だけれど…… いずれは、人はまた一歩を歩み出さないといけないものよ。わたくしは、グレンたちからそのことを教わったわ」 グレン……ウルティメイトフォースゼロの仲間たち。彼らはどんな暗闇の中にいようとも、 その先に光があることを信じて、歩き続けている。ヤプールという絶望に打ち勝ったのも、 それが主たる理由だ。 「彼らはゼロが死んだとあきらめずに、彼の行方を今も探し続けていると聞いてます。わたくしも…… ゼロと、使い魔さんが死んだとは信じ切れませんわ。確証なんてないけれど、どこかで生きている、そんな気がします」 と語ったアンリエッタは、ルイズの瞳を覗き込む。 「ルイズ、あなたはどう思うかしら。そして……自分はどうすべきと考えるかしら?」 「わ、わたしは……」 今のルイズには、何も答えられなかった。頭の中がごちゃごちゃで、考えが纏まらない。 「……すぐにどうこうしろ、とはわたくしは言いません。あなたのことは、あなた自身で決めるものだもの。 でも……早い内に、あなたが一歩を踏み出すことをお祈りしてます」 時間が来たのか、その言葉を最後にアンリエッタは退出していった。 後には、座ったまま途方に暮れるルイズだけが残された。 ……ルイズの前から姿をくらました才人。その才人は今、不思議な空間の中にいた。 『……あれ? ここは……』 気がついた才人の視界に、まるでテレビの画面が映し出されるように、ある光景が展開される。 『こ、これは……』 『キャ――――――――オォォウ!』 『ぐッ……ぐぅぅッ……!』 それは、ゼロが怪獣アントラーの突進を真正面から食い止めている様子。彼のカラータイマーは ピコンピコン、と赤く点滅している。エネルギーが尽きかけている証だ。 そして才人は、この光景に見覚えがあった。ハルケギニアの大地に召喚されたばかりの頃…… フーケを追いかけて、アントラーが出現した時のものだ。 『どうして、今になってこんな昔のことを……』 才人は過去の記憶が目の前で展開されていることで、これが何か一つの考えに至った。 『これが、走馬灯って奴かな……』 意識が途切れる前、何をやっていたかを思い出す。大いなる絶望、ゼロキラーザウルスを倒すために…… ルイズたちを助けるために……命を犠牲にしたのだった。 あれで自分が生き残れるはずがない……。つまり今見ているのは、今際の走馬灯に違いない。 『うわあああああああああああああああああああああああッ!!』 目の前の光景が切り替わる。今度は、最初にアルビオンに赴いた時のこと……ガッツ星人、 テンペラー星人、ナックル星人の三宇宙人の集中砲火をゼロが食らって苦しんでいる。 『ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』 また光景が変わった。今度はタルブ村での決戦。ゼロがブラックキングとキングジョーに 締め上げられている。 『ぐうおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』 その次は、円盤生物軍団に袋叩きにされているところ。 『うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――――!!』 その次は、デスフェイサーのネオマキシマ砲に押し切られて、壮絶な爆発に呑まれるところ。 『くっそぉッ! あんな奴らの好きにさせたままだなんて! このッ! このぉッ!』 その次は、ヒッポリト星人の罠にかかって屈辱を味わわされながら固められそうになっているところ。 『うあああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』 その次は、カブトザキラーのM87光線を食らって追い詰められているところ。 全て、ハルケギニアに来てからの戦いの中での出来事だ。彼と一心同体の才人も当然経験してきたこと。 これらを目の当たりにした才人がつぶやく。 『こうして見てみると……俺たちの戦いって、苦戦の連続だったなぁ……』 ウルトラマンゼロはあのウルトラセブンの血を受け継ぐ、若いながらも凄まじい力を秘めた大いなる戦士。 しかし、実際の戦いはこのように、何度も敵に追い詰められてばかりだった。やはり実戦というものは、 ゼロほどの力があっても楽なものではないのか。 そう考えた才人の前に、この記憶がよみがえる。 『くぅッ……一体どうなってるんだ……? 身体が重すぎる……!』 『! これは……!』 雪山の中で、ゼロがアイスロンとスノーギランの二大超獣に追い詰められている。……いや、 ただ追い詰められているだけでなく、ゼロはこの時、明らかに不調だった。 動きは非常に鈍く、技のキレはなく、光線技は相手まで届かない。いつもなら考えられないくらいに 力が弱っていた。 そして、その原因というのは……。 『俺には何の異常もない。異常があるのは……才人、お前の方にだよ』 そうなのだ。この時、ゼロには何も問題がなかった。問題があったのは、才人の方である。 才人が戦いに積極的でなくなっていたから、ゼロがそれに引っ張られて、力が出せなくなったのだった。 そしてこれを思い出した才人は……ある一つの考えに至ってしまった。 『まさか……これまでのゼロの苦戦は……俺と合体したから……?』 ゼロは非常に腕の立つ戦士。それがこうも何度も苦しめられたのは……自分が弱かったからではないのか? 雪山の時だけでなく、本当は最初から……自分はゼロの足枷になっていたのではないか? 『そ、そんな! 俺のせいで、ゼロが苦しみ続けたなんてこと……そんなことはないはずだッ! 誰か、誰か否定してくれッ!』 その考えを振り払おうとする才人だが、その時……真っ暗闇の中に、ゼロの背中が浮かび上がった。 『ゼロ……?』 その背中は……どんどんと才人から遠ざかって、小さくなっていく。 『待ってくれ! ゼロ、行かないでくれぇッ! お前がいなくなっちまったら、俺は、俺はどうしたら……! ゼロぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――――――――――――!!』 必死に手を伸ばそうとした才人だが、身体が動かない。いや、身体の感覚もない。 その間に無情にも、ゼロの背中は離れていき……闇の中に消えてしまった……。 そして……。 「ゼロぉぉぉぉぉッ!!」 目を覚ました才人は絶叫した。 ぜぇぜぇ、と荒い息をついて、ひと言発する。 「夢かぁ……」 寝ぼけ眼から覚め、今自分の置かれている状況を把握しようとする。 ここはどこだ? 見たことのない場所だ。こぢんまりとした部屋の中で、自分は粗末だが 清潔なベッドの上で寝ていたようだ。 どうしてこんなところにいるのかは皆目見当がつかないが、一つだけわかったことがある。 「……俺、助かったのか……」 自分は絶対に死んだものだと思っていた。が、しかし、こうして生きている。ここが死後の 世界という訳でもなさそうだ。 安堵していると……目の前にいきなり、赤い何かがぬっと顔を出してきた。 「キュー?」 「……うわぁぁぁッ!?」 ギョッと驚く才人。赤い何かは、全身赤いヒレみたいなものに覆われた厳つい顔つきの、 けれど鳴き声は小動物のような不思議な生物だった。 「ぴ、ピグモン!?」 才人は思わずそう叫んだ。この生き物は、地球で人気の高い小怪獣、ピグモンによく似ているのだ。 しかしよく見ると、ピグモンよりもガタイがいい。近縁種か何かだろうか? そして気がつけば、近くにいるのは赤い生き物だけではない。周りには、大小男女取り混ぜた 子供たちが自分をじっと見つめている。どの子も薄汚れた服装だが、目はいきいきと輝いている。 「変な人だ! 怪しい人だ!」 「ミーニン、行こう!」 「キュッ、キュッ」 子供たちは才人の奇声に驚いたのか、赤い生物を連れてあっという間に隣の部屋に逃げていく。 「お、おい……、誤解だ誤解!」 「変人だ! 近づいちゃダメな種類の人だ!」 才人は言い訳しようとしたが、子供たちは止まらずに全員部屋を去っていった。 「なんなんだよ、あいつら……。それにしても、ここはどこなんだろう」 はぁとため息を吐きつつも、今の自分の状態を確認する才人。確実に死んだと思われた自分が 生きていることが一番の疑問だったが、そこは魔法使いの世界だから、何が起きても不思議ではないと 適当に解釈した。 それから自身の身体を確かめると……とんでもない変化に気がついた。 「な、ない!? ガンダールヴのルーンが……!?」 左手の甲に、ルイズと契約してからずっと刻まれていたルーンが、綺麗さっぱりなくなっているのだ。 最初から何もなかったかのように。 「ゼロ、大変だ! 俺のルーンが……ゼロッ!?」 咄嗟に手首のウルティメイトブレスレットに視線を移したが、更に驚くべきことに気がついた。 ブレスレットのランプに、光が灯っていないのだ。これはゼロの命の輝きも示している。 それが消えているということは……まさか!? 「う、嘘だろゼロ!? 俺たち、一心同体じゃないのかよ! 俺だけ助かって、お前は助からなかったなんて ことはありえないだろ! 何とか言ってくれよ、ゼロぉぉぉッ!」 「あ、あの……大丈夫?」 腕のブレスレットに必死で呼びかけていたら、子供が逃げていったドアから、涼しげな美声が聞こえた。 はっ、とそちらへ振り向くと、ドアから流れる星の川のような金髪の娘が現れた。 その娘は、非常に胸が大きかった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9303.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第九十話「ハイスクール危機一髪!」 オイル怪獣ガビシェール 登場 「……おにーちゃーん! お・き・てー!」 ……俺がぐっすり寝ていると、不意に甲高い声音での呼び声が聞こえた。 しかし、「お兄ちゃん」とは妹が兄を呼ぶ言葉だ。弟の場合もあるだろうがそれは考えないものとする。 そして俺に妹はいない。つまり起こされているのは俺ではない。なーんだ、まだ寝てよっと。 「もう! お兄ちゃんたら、起きなさーい!」 「ぐえッ!?」 そう思ったのだが、急に腹に衝撃が来た! だ、誰かが俺の上に飛び乗ってきたみたいだ……。 「おはよ、お兄ちゃん!」 目を開けると、俺の腹部の上に、ツーテールの小さい女の子が跨っているところを目にすることとなった。 「……は? おにい……ちゃん?」 「うにゅ、寝ぼけてる? 駄目だよー、もうお日様も元気なんだからね?」 女の子は元気に俺に話しかけてくる。けれど……こんな子に見覚えはないぞ。一体誰なんだ……? 「……あの、どちらさまでしょう? 俺に妹はいなかったと思うんですが」 そう言うと、女の子は唇をとがらせた。 「ぶー! いるよー! ひどいよ、サイトお兄ちゃん!」 「は? え? ちょ、え? 俺がお兄ちゃん? お兄ちゃん?」 事態が全く呑み込めずに混乱していると、部屋にシエスタが入ってきた。 「あら、リシュさん。今日は先越されちゃいましたね」 「おっはよー、シーちゃん! 今日はリシュの勝ちだね、えっへん!」 シエスタは女の子と親しげに言葉を交わした。ということは、シエスタはこの女の子を知っているのか? 「シ、シエスタッ! この子、知り合いなのか!? 俺の部屋に勝手に入ってきてたんだ!!」 女の子をどかして跳ね起きた俺が聞くと、シエスタはきょとんとした顔になった。 「知り合いって……そんなの当たり前じゃないですか。サイトさんの妹なんですから」 「え? いも、うと……。俺の?」 「そうですよ。どうしたんですか、サイトさん?」 至極当然といった風に言うシエスタ。 そう言われると……確かにそうだったような気がしてくる……。 うん、そうだ。俺とリシュは兄妹。幼馴染のシエスタも入れて、楽しく暮らしてきたんだった。 どうしてそのことをすっぽりと忘れてたのか……自分で自分が不思議だ。 「もうご飯できてるよ! 早く食べに行こう、お兄ちゃん」 気を取り直して、俺は呼びかけたリシュに返答する。 「そうだな。んじゃ俺着替えるから、先行ってろ」 「手伝ってあげよっか?」 「妹に着替え手伝われる兄なんていねーよ! ほら、さっさと出てけ!」 からかうリシュの首根っこを掴み、ドアの方へと押しやった。 「あーん、お兄ちゃんの意地悪」 「ふふッ! じゃ、サイトさん、また後で」 シエスタと一緒にリシュが退室してから、俺はもう一度確認する。 「そうだった、俺には妹がいたんだっけ。……うん、そうだった」 「みんな、おはよう! 朝のホームルームを始めるぞ」 今日も学校に登校。教室に矢的先生が入ってきて、ホームルームを開いた。 そう言えば、昨日はルイズとキュルケの仲を取り持つための手段に、ミスコンでの勝負を 持ちかけたんだったな。ひと晩明けて、その二人はどうしているか……そっと目を配らせる。 ルイズは特に変わりなし。……いや、昨日よりも何かツーンとした顔してるように見えるのは、 俺の気のせいか? キュルケはキュルケで、先生の話を聞きながら爪の手入れをしている。ちゃんと聞けよ、たまには。 「えー、今日の連絡は以上だ。それから……みんなも聞いてると思うが、近々、学園伝統の ミスコンテストが開催される。そして、このクラスから何と二人も立候補者が出た!」 先生がちょうどミスコンの件に触れた。 「一人はキュルケ」 「はぁい」 「もう一人はルイズだ」 「はい」 二人の名前が呼ばれると、クラスがざわめいた。まぁ、当然か。転校してきたばっかの ルイズがいきなりミスコンだもんな。しかもキュルケ相手に……。 「ほら、静かに。同じクラスの仲間だ。当日、どっちに投票するかは別として、平等に応援 してあげるように」 それを最後に、先生のお話しは終わりとなった。 「じゃあ、これでホームルームはおしまいだ。一時間目の支度をするように」 ホームルームが終わってすぐ、落語、スーパー、ファッション、博士の四人組が話をする声が聞こえた。 「なぁ、どうする? どっちに投票する?」 「そりゃキュルケだろ。他に誰が立候補するのか知らないけどさ、あのスタイルだぜ? どう見たって決まりさ」 「そうかしら? あたしはルイズさんに投票するわよ! 女の子からしたら、ルイズさんの方が 好感持てるわ」 「僕もだよ。キュルケさんはちょっと派手すぎるし、授業に不真面目なところがあるからね。 その点ルイズさんは、静かにしてたら清楚だからね」 「だよな。俺もルイズに一票!」 ……へぇ。正直、勝負になるか若干不安でもあったけど、ルイズも案外いい線行きそうだな。 けど……男がルイズをもてはやすのを聞いてると……何か面白くないな。妙にイライラするというか……。 何なんだよ、この気持ち……。 どうにももやもやしていたら、先生が教室からの去り際に、俺に呼びかけた。 「あッ、そうだった。平賀、放課後に少し残っててくれ。先生から、少し話がある」 「えッ? はい……」 先生から話が? また何か面倒事でも引き受けさせられるのだろうか……。 放課後。教室に残った俺の側には矢的先生と、何故かルイズとキュルケがいる。どうしてこの二人が ここに……。この組み合わせは大体ろくなことにならないから、今から何事があるものかと不安でならない。 「平賀、まずは聞いてくれ。今朝も触れたミスコンテストなんだが、実は立候補をする場合、 必ず推薦者を立てる必要があるんだ」 「はぁ、推薦者ですか」 「簡単に言うと、その立候補者を応援する人の代表だな。ある意味、最大の責任者といえる」 そんな重要な役割の話を、俺にするってことは……。 「あのー、まさかとは思うんですけど。俺が……それに選ばれたんですか?」 「そういうことなんだ」 「やっぱりですか! ど、どっちのですか!?」 聞き返すと、先生はすごく困った顔を作った。 「そこが問題なんだがな……」 「え?」 「ルイズとキュルケ、その両方がお前を推薦者に指名してるんだよ」 えッ、えええぇぇぇぇぇ!? り、両方が俺をぉ!? キュルケが目くじらを立ててルイズに視線を向けた。 「困っちゃうでしょ? ルイズったら、図々しいんだから」 それに言い返すルイズ。 「どっちがよ! サ、サイトは、あ、あんたのものじゃないんだからね!」 俺は喧嘩腰の二人の間に割って入った。 「待て待て待て! 何で俺なんだよ、しかも二人そろって!」 「わわわ、わたしは別にあんたを選んだ訳じゃないんだからね! ほ、他にいないから、 仕方なくなんだからね!」 そっぽを向いたルイズと対照的に、キュルケは俺にすり寄る。 「あたしはその点、ダーリンしかいないって思ってお願いしてるのよ?」 「……とまぁ、見ての通り、二人は本気でお前を指名してるんだ」 先生が再度口を開いた。 「しかし、推薦者の役割を考えれば当然のことだが……一人が二人の推薦者を兼任した前例はない」 まぁ、そうだろうな。優勝者が一人だけの以上、二人の応援の代表になるなんてありえないよ。 「こうなった場合は、どっちかに譲ってもらわなくちゃならないんだが、二人ともそのつもりは ないの一点張りだ」 「当然です」 「ツェルプストーに譲るものなんてありません!」 どうしてこういういらない時だけ気が合うんだよ、お前たちは……。 「それで、平賀自身にどっちかを選んで、それで決めようということになったんだ」 「お、俺が決めるんですか!?」 「他に適任はいないだろう?」 か、勘弁してくれよ! 仲直り作戦が本当に上手くいくのかどうかも心配なのに、しょっぱなから 俺を振り回そうだなんて! 何で俺、こうやってどこまでも巻き込まれるんだよ! 「それじゃあ、平賀。ルイズかキュルケか、正直な気持ちで選んでくれ」 そ、そう言われても……どっちを選んだとしても、余計に大変な思いをするのは避けられ なさそうなんですが……。 「これ……辞退するってのはなしですかね……?」 先生にひそひそ問いかけると、先生は眉をひそめて却下した。 「それはちょっと駄目だな。二人とも、真剣にお前にお願いしてるんだ。それでどっちも 選ばないんじゃ、二人とも納得しないだろう。どっちかの推薦者には必ずなってくれ」 うそー! 逃げ場なしかよ! そ、それじゃあ……。俺はひどく悩んだ末に、先に頭の中に浮かんだ顔の方を選択することにした。 「ルイズを……」 言いかけたその時、キュルケが俺の腕を掴んで、ぐいっと自分の方へ引っ張った! 「ああん、手が滑っちゃった」 「おぶッ!?」 そのまま俺の顔が、キュルケの胸に谷間に押しやられた! ぐぐッ……口がふさがれて声が出せない……! 「ち、ちょっとキュルケ!? 何で手が滑ったらサイトを抱きしめることになるのよ!」 「おいおい、キュルケ! 平賀が意見を言えないぞ。放してあげなさい」 「あら、そうですわね」 キュルケは俺を放しながらも、身体をぴったりとくっつけ、胸を押し当ててくる! 「それで、ダーリン? さっきは何と言いかけたのかしら? も・ち・ろ・ん、あたしの名前よねぇ?」 「えッ、あッ、そ、その……!」 と、とっても柔らかい感触が俺の思考をかき乱すが……それ以上にキュルケからの異様な 圧力を感じて、回答できなかった。ここで下手なこと言ったら、後が怖そう! ルイズがキュルケを非難する。 「卑怯よキュルケ! 強引に自分を選ばせようとしてるんでしょ! そうはいかないんだから!」 「あーらぁ、何のことかしらぁルイズ? 言いがかりはやめてちょうだい!」 互いに詰め寄ったルイズとキュルケがぎゃんぎゃんと言い争う! け、結局こうなるのかよぉ! 「やめろ、お前たち! こんな調子じゃ、いつまで経っても終わらないぞ!」 先生が制止しようとするけれど、対抗心に火が点いた二人はさすがに簡単に止まりそうにない。 ああもう、どうしたらいいんだよぉ!? 俺が思わず天を仰いだその時……突然教室を大きな揺れが襲い、俺たちはバランスを崩して 転げそうになった。これにはさすがのルイズたちも驚いて、口論を途絶えさせる。 「い、今の揺れは……!」 「このパターンって……!」 嫌な予感を覚えた俺が窓の外に目を向けると……風景の地面が下から砕かれ、その中から 一体の大型怪獣が地上に這い出てきた! 「キャアアアァァァ!」 全身の皮膚がデコボコとしていて、肩から細長い触手のようなものを生やしている。キノコみたいな 菌類が動物になったかのような怪獣だ! 端末のデータによると、名前は……オイル怪獣ガビシェール! 「怪獣だ! みんな、早く避難を!」 先生は怪獣の姿を目にすると、即座に俺たちの避難誘導を始めた。そんな中で、俺はガビシェールの 情報をもっと確認する。 「オイルを求めて暴れ回る上、満腹になったらなったで破壊衝動に目覚めて辺りを破壊し尽くす 危険な怪獣だ! ……でも、何でそんな奴が何の変哲もない市街地にわざわざ現れたんだ?」 もっとオイルがありそうな場所……油田とか空港とかに現れそうなものだが。 『今はそんなこと考えてる暇はないぜ! 才人、変身だ!』 「ああ、そうだった!」 ゼロに促され、俺はこっそり先生たちから離れると、人のいない場所でウルトラゼロアイを装着! 「デュワッ!」 変身したゼロが、ガビシェールの前に立ちはだかって街を守る! 『よぉし、行くぜぇッ!』 「キャアアアァァァ!」 戦闘開始するゼロとガビシェール! まずはゼロの先制パンチが決まる! 「セアァッ!」 ひるませたところで素早く相手の腕を捉え、一本背負い! 『うらぁぁぁッ!』 「キャアアアァァァ!」 出だしからいい調子でダメージを与えたゼロだが、ここでガビシェールからの反撃が来る。 奴の口から一本の管が伸び、そこから火炎放射攻撃が繰り出されたのだ! 『ぬおッ!』 火炎をまともに食らったゼロが、皮膚をあぶられて苦しんだ。オイルを食らう怪獣だけあって、 吐き出す炎の熱量はそこらの奴とはひと味違う! 『けど、まだまだこんなもんじゃないぜ! ふッ!』 ゼロは持ち直すとウルトラゼロディフェンサーを展開し、火炎を遮断。その一瞬の隙に 敵の懐に飛び込んでいった。 「セェェェアッ!」 「キャアアアァァァ!」 ゼロのチョップ、キック等の連撃がガビシェールに叩き込まれていく。ガビシェールも 腕を振り回して反撃してくるが、ゼロは相手の打撃をその都度いなす。 ガビシェールはこの前のアブドラールスとは違って、格闘能力はそこまでのものではなかった。 インファイトだったら、ゼロに大きな分がある。この勢いだ! 『よしッ、このまま勝負を決めるぜ!』 ガビシェールを十分に弱らせたところで、ゼロが左腕を横に伸ばし、とどめのワイドゼロショットの 構えを取った。 「キャアアアァァァ!」 しかしその瞬間を狙ったかのように、ガビシェールの口の管が先ほどの比ではないくらいに 長く伸び、ゼロの首に巻きついた! 『何ッ!? くッ、しくったッ!』 「キャアアアァァァ!」 ガビシェールは管を引っ張ることで、ゼロを滅茶苦茶に引きずり回す! 首を絞められて 上手く力を出せないゼロは抵抗できない! 『ぐおぉッ!』 赤く点滅して鳴り出すカラータイマー。くッ、前半飛ばしすぎたか! 「がんばれー! ウルトラマーン!」 「立って! ウルトラマーン!」 この窮地に、学校の方から応援の声が届いた。 見れば、博士たち四人がルイズらと一緒に応援してくれている。あいつらもまだ学校に残っていたのか。 「がんばれー! ウルトラマンゼロー!」 「俺たちの、ウルトラマンゼロ……」 けれど、途中でその応援の叫び声がしぼんでいった。ど、どうしたんだ? 「みんな、どうして途中で応援をやめるの?」 ルイズも疑問に思ったようで問いかけると、落語、スーパー、ファッション、博士の順に答えた。 「……なーんか、違和感があるんだよな」 「うん、何かが違うような気がしてならないんだよなぁ」 「そうよね。あたしも前々からそう感じてるのよ」 「上手くは説明できないんですが……どうもしっくり来ないというか、これが正しいのか? みたいな気がするんですよね」 おいおい! 何かひどいこと言われてるよ! 何かが違うって……どういうことだ、一体! 『気にしてる場合じゃないぜ! こんなもんじゃ、俺は負けねぇッ!』 どうにも煮え切らないが、それでもゼロは発奮し、反撃に転ずる。額のランプからエメリウム スラッシュを放ち、ガビシェールの管を撃ち抜いた。 「キャアアアァァァ!」 管が根本から弾け飛び、これでゼロは自由となった。よし、流れをこっちに戻したぜ! 「シェアッ!」 ゼロは更にゼロスラッガーを投擲し、ガビシェールの肩の触手を同時に切り落とした。 肉体の部位を失っていくガビシェールはみるみる力も失う。 そこにゼロが、今度こそとどめのワイドゼロショットをお見舞いした! 『これでフィニッシュだぁぁぁぁッ!』 「キャアアアァァァ!」 ワイドゼロショットは綺麗にガビシェールに決まった! 直撃を受けたガビシェールは 前のめりに倒れ、そのまま完全に動かなくなった。 「ジュワッ!」 今回も無事に怪獣をやっつけたゼロは、大空に飛び上がってこの場から去っていった。 怪獣のことはそれでいいんだが、平賀才人の方の目下の問題は何の解決にも至っていない。 ルイズとキュルケはその後も、俺がどっちか片方の推薦人となることを頑として認めなかったのだ。 その末に、矢的先生は言った。 「分かった。それじゃあ仕方ない。特例として、平賀を両方の推薦人とすることを認めよう」 「認めちゃうんですか!?」 「このままじゃいつまで経っても話は平行線だし、ミスコンは生徒主導の行事だ。その生徒の希望に、 僕は先生として出来得る限り応えるとしよう!」 と宣言する先生。半ばやけっぱちになってませんか!? 「平賀、二人分の推薦人は大変だとは思うが、ルイズとキュルケ、平等に応援してあげてくれ」 「えええ……」 これから先が思いやられて心労気味な俺に、キュルケが囁きかける。 「大丈夫よ、ダーリン。あたし、あなたの応援があれば、こんな平面な子に負けたりしないわ」 それに噛みつくルイズ。 「そ、それは、こ、ここ、こっちの台詞よ! ああ、あんたみたいに、男漁りしか取り柄の ない人に負けたりしないんだから!」 「……言ってくれるじゃない」 「……」 互いの間でバチバチと火花を散らす二人。まだ始まってもいない段階でこれなんて、本当に この先どうなっちまうんだよ……。 ああ、俺は生きてミスコン開催日を迎えられるんだろうか。ゼロは快調に活躍してるというのに、 俺の方は何でこんなことになってしまうんだぁー……! 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9295.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第八十七話「怪獣よ地底へ帰れ!」 噴煙怪獣ボルケラー 登場 クリスとクラスメイトの仲を取り持つために、パーティーを開催しようということになった後日、 才人は自分一人だけでは一向に良い案が思い浮かばなかったので、学院での友人たちに相談してみる ことにした。デバンに言われたことも考慮したが……やはり、結果がどうなるにせよ、このまま何も しないで終わりにするのはどうしても納得できないのだ。 そうして放課後の食堂に言いだしっぺの才人、ルイズと、タバサ、ギーシュ、モンモランシー、 そして問題の渦中のクリスが集った。 「さぁ、お集まりの諸君! 皆の親睦を深めるパーティーの内容について考えようじゃないか!」 「何でお前が仕切るんだよ」 会議の始まりを告げたギーシュに、才人が冷静に突っ込んだ。まぁ、テンションが上がると 無駄にノリの良くなるギーシュだから仕方ない。 最初にモンモランシーが才人に尋ねかける。 「いきなりパーティーの内容を考えようって言われても、具体案なんて思い浮かばないんだけど…… サイトはそういう皆の親睦を図る行事を経験したことがあるの?」 「まぁ、俺のところの学校でいくつかな」 「じゃあ、それを参考にしてみるのはどうかしら。こういうのは、過去の経験を参考にするのが 一番手っ取り早いわ」 「さすがモンモランシー! いい考えだ。ではサイト、君の経験したことを説明してくれたまえ」 モンモランシーの意見に賛同したギーシュに求められて、才人は林間学校、臨海学校、 合唱コンクール、体育祭、文化祭などの思いつく学校行事を説明した。すると、皆はやや渋い顔になる。 「……じゃ、意見を纏めよう。まず、リンカンガッコウとリンカイガッコウは論外だ」 「え? 何でだよ。面白いぞ、キャンプ」 「僕たちは貴族だよ。ましてや戦争が終わったばかりだというのに、野宿なんて出来やしないよ。 戦時の野営を思い出すじゃないか」 「ああ、それもそうか……」 ギーシュの反論で、才人はやり込められた。 「それと同じ理由で、タイイクサイも却下だ。今更汗水流して動き回りたくない」 「ガッショウコンクールも微妙よ。わたし、歌は聞く方が専門なの」 「ん」 モンモランシーの言葉にタバサが小さくうなずいた。才人は、タバサの歌うところは、 それはそれで見てみたいけどと一瞬思った。 続けざまにルイズが言う。 「ブンカサイは漠然としてて、参考にしづらいわね」 「だから、演劇とか屋台とかやるんだって。演劇なら経験あるだろ?」 「経験あるのは、ここにいるのだとわたしとサイトと、後はタバサだけじゃない。わたしたちは 人に物を教えられる性質でもないし、たった三人でどんな劇をしようっていうのよ」 「うッ、それは……」 問い返されて、才人は返答に窮してしまった。 「……せめてキュルケがいればなぁ。そういえばタバサ、キュルケはどうしたんだよ。あいつだけ まだ学院に戻ってないみたいだけれど、キュルケの奴は今何やってるんだ?」 「……」 ふと気になって問いかけたが、タバサは黙したまま何も答えなかった。 結局、才人の意見はあれこれ難癖つけられて参考にならなかった。才人は改めて、貴族って 面倒くさいと思った。 「クリスは、何か意見ないのか?」 にっちもさっちもいかなくなったので、才人はそれまで全くしゃべっていないクリスに尋ねかけた。 「あ、ああ、そうだな……。どういったことを行うかの提案なのだが、平民に向けた舞踏会はどうだろう?」 「平民に向けた? どういうこと?」 モンモランシーが聞き返すと、クリスははっきりと答えた。 「我々が自ら準備した舞踏会に平民を招くということだ」 「おお! それって文化祭って感じ!」 才人は評価したが、ギーシュとモンモランシーは冷めた目を向けた。 「……何言ってるんだい、クリス?」 「あり得ないわ、平民を舞踏会に招くなんて! それに平民に施しを与える行事が、どう親睦に つながるというのよ」 強く反発する二人を、才人がなだめる。 「待てよ。クリス、今のは何か考えがあって言ったんだろ?」 「ああ。常日頃から思ってるんだが、わたしたち貴族はいずれ平民を纏める立場だ。しかし我々は、 その平民の暮らしや様子をよく知らない。そこで思い切って平民の立場になって、彼らのことを 知ろうと考えたんだ。貴重な機会になると思うが」 クリスの意見に、才人は感心を覚えた。自分はとりあえず楽しく出来ればそれでいいくらいにしか 考えていなかったが、さすが王女ともなると、こういう機会も後学につながるものにするよう 思案する。発想が違う。 「そうは言ってもねぇ……」 「やっぱり抵抗が……」 しかしギーシュとモンモランシーは難色を示す。すると、ルイズが口を開いた。 「わたしはクリスに賛成するわ」 「ルイズ!」 才人がルイズへ喜びの目を向けた。 「わたしもさる用事で、一時平民の仕事を経験したから分かるけれど、平民の間には貴族の 立場からじゃ見えないことがたくさんあるのよ。わたしたちの暮らしぶりの根底は、平民の 働きに支えられてる。その源を理解するのは、学院を卒業してから大いに役立つ経験になるはずよ」 ルイズもかつては、ギーシュらのようなトリステイン貴族の価値観で平民を下に見ていた。 しかし『魅惑の妖精』亭での経験から始まり、シエスタやアニエス等の非メイジの人たちに 何度も助けられたことで、その価値観を改めたのであった。 「それにクリスの言ったことは、平民との集団行動においての連携を取る練習にもなるわ。 有事の際には平民との連携も重要って戦争の時に感じたでしょう? その点を視野に入れたと 言えば、学院側の許可も取りやすくなると思うし。違うかしら?」 「ふーむ、なるほど。それは一理あるな……」 ルイズに諭され、ギーシュたちもやっと賛同を示してくれた。 「まぁ、他にいい案も出そうにないし、その方向で行きましょうか」 「……」 タバサも無言で賛成の意を表し、クリスの意見が採用されることとなった。 「ありがとう、ルイズ。お陰で助かった」 「べ、別にお礼を言われることじゃないわよ。わたしはわたしの思ったことを口にしただけよ」 クリスに正面から礼を言われ、ルイズは照れ隠しにそう返した。 その後、皆で舞踏会の細かい部分の案を出し合った。そして夜になってお開きとなってからも、 才人はルイズに紙とペンを借りて、ちゃぶ台で会議で決まったことを纏めていた。そこに デルフリンガーが尋ねかける。 「相棒、何だか楽しそうじゃねえか。まだ何やるか決まっただけだってのによ」 「へへ、まぁな。みんなで催し物をするなんて久しぶりだし、個人的にも楽しみなんだよ。 祭りは準備の方が楽しいっていうし」 「サイトさん、お茶を淹れました。どうぞ」 返答した才人の手元に、シエスタがすっとティーカップを置いた。 「おお、ありがとシエスタ! いただきます」 「ふふ、どうぞ召し上がれ」 「ちょっと待ちなさいよ。何でシエスタが自然な感じにわたしの部屋にいるのよ!」 ルイズが突っ込むと、シエスタが不敵な笑みを浮かべながら返した。 「あら、わたしにサイトさんの召使いとなるよう女王陛下がお命じになったこと、お忘れですか? ミス・ヴァリエール。召使いが主人の傍にいるのがおかしいことでしょうか」 そう言われると、ルイズはぐっと言葉を詰まらせた。 ボーグ星人との戦い後、シエスタはいつの間にかアンリエッタに、貴族には使用人がつきものだし、 貴族の世界について右も左も分からない才人をサポートする役目の人が必要と理由をつけて、自分を 売り込んだのだ。それにアンリエッタは説得されてしまい、シエスタは晴れて才人の使用人となったのである。 ルイズにとってはかなり納得のいかないことであるが、アンリエッタの決定には、さしものルイズも逆らえなかった。 それにシエスタが才人の専属になるというのも、生活面では悪いことではない。才人が鍛錬を 日課に入れてから、家事が滞り気味になっているからだ。それを代わりにやってくれる人がいれば、 才人もルイズも助かる。 「そうそう、異動という形になりますので、今日からはわたしもミス・ヴァリエールのお部屋に ご厄介にならせていただきますね」 「は、はぁ!? どこで寝るっていうのよ!? ベッドは一つしかないのよ!」 「シエスタもいっしょに寝ればいいじゃん。ベッド大きいんだからさ」 才人がさらっと言うが、ルイズは大声で反対する。 「だめ! だめ! だーめ! 狭いわ! それにシエスタは……」 平民だから、と言いかけたが言葉を呑んだ。放課後に平民のための舞踏会に賛成した手前、 舌の根も乾かぬ内にそんなことは言えない。 それでも一緒に寝たりなんかしたら、シエスタが才人に何をするか分かったものではない。 それで反対し続けていると……。 「じゃあいいよ。俺が畳で寝るから。お前ら一緒に寝ればいいだろ」 再び才人がさらっと言った。するとシエスタが大きく首を振る。 「そんな! サイトさんは今じゃ騎士さまですよ! 床で寝るなんてダメですッ! じゃあわたしも おともしますッ!」 「……え?」 才人とシエスタが見つめ合って頬を赤くする。それにルイズはわなわなと震えて、言いたくなかった 言葉を発した。 「わ、分かったわよ。い、いいわ。一緒に寝ましょう」 「そんな……、でも、貴族の方と一緒になんて……」 「サイトだって今じゃ貴族よ」 「でも、サイトさんはサイトさんだし……」 身をくねらせるシエスタに、ルイズは引きつった笑顔を向ける。 「いいから」 「はい……」 恥ずかしそうにうつむくシエスタ。そんなことをしていたら、急にゼロが声を張り上げた。 『才人、学院の近くに怪獣出現だ! こっちに近づいてきてるみたいだぜ!』 「えッ!?」 ゼロの知らせに、三人が驚きの声を上げた。ルイズが聞き返す。 「ちょっと、また学院の近くに怪獣なの? ついこの間、同じことがあったばかりじゃない!」 『そんなこと言われても、事実だからしょうがないぜ』 ゼロが身も蓋もなく言い返した。 『そういうことだから才人、出動だ!』 「よし、分かった!」 ペンを置いた才人が窓を開け放ち、ゼロアイを取り出す。 「サイトさん、ゼロさん、お気をつけ下さい!」 「しっかりね!」 シエスタとルイズの応援を受けながら、才人は変身。青と赤の輝きが猛スピードで学院から離れていく。 そして飛んでいった先に、怪獣の巨体を発見した。頭部の左右に折れ曲がった二本角と、 鼻先の長くとがった角が特徴的で、両手は三日月のような形状。どんな生物とも似ていない 容貌の、おかしな怪獣であった。 『あれは……噴煙怪獣ボルケラーか!』 才人は端末の怪獣図鑑から、地上の怪獣の情報を引き出した。 ボルケラーは半分だけ開いた目つきで、まっすぐ魔法学院の方角へ進んでいる。それを見てゼロが言う。 『やっぱり、あいつも学院を狙ってるのか……そうはいかないぜ!』 実体化したゼロはボルケラーの面前に降り立ち、その進行方向に立ちはだかった。 『ここから先は通さねぇ!』 「キャアアァァ!」 するとボルケラーは腕を振り回し、猛然とゼロに襲いかかってくる。ゼロは相手の腕を抑え、 突進を止めた。 『この感じ……やっぱりこいつも正気じゃねぇってことか! なら!』 ボルケラーの胸部に素早く掌底を入れて突き飛ばすと、ルナミラクルゼロに変身。ティグリスや ホオリンガにやったのと同様、フルムーンウェーブを浴びせかける。 『フルムーンウェーブ!』 最早慣れたもので、光の粒子を一身に浴びたボルケラーは覚醒し、辺りをキョロキョロと見回した。 「キャアアァァ……?」 『ここはお前の世界じゃねぇんだ。さぁ、早いとこ帰りな』 立ち尽くすボルケラーに優しく呼びかけるゼロ。だが、 「キャアアァァ!」 ボルケラーはいきなり口から黄色いガスを噴出して、ゼロに浴びせてきた! しかもガスが当たると、ゼロは爆発に襲われる! 『うおああぁッ!?』 不意を突かれる形となったゼロはなす術なくやられ、仰向けにばったり倒れる。そしてその上に ボルケラーが馬乗りになり、ゼロをボコボコに殴り始める。 「キャアアァァ! キャアアァァ!」 『うぐおぉッ! こ、この野郎ッ!』 ボルケラーはティグリスやホオリンガと違い、元の気性が荒いようだ。そのため覚醒させても、 そのまま大人しく帰らずにゼロに攻撃を仕掛けてきたのだ。 これにプッツン来たゼロは、通常形態に戻ってボルケラーの腹を蹴り、自分の上から蹴り飛ばす。 『やってくれるじゃねぇか……一旦お灸を据えねぇと駄目みたいだな!』 やられっぱなしではいられず、エメリウムスラッシュを発射。が、ボルケラーは見た目にそぐわぬ 軽快な跳躍でレーザーから逃れた。 『ちッ、思ったよりも身軽じゃねぇか……!』 「キャアアァァ!」 着地したボルケラーとジリジリ睨み合うゼロ。先に痺れを切らしたボルケラーの方が動く。 「キャアアァァ!」 口から再度爆発性ガスを吐き出して、ゼロを狙う。するとゼロは、 『そう来ると思ったぜ! はッ!』 迅速な動作でウルティメイトブレスレットからウルトラゼロディフェンダーを出し、ガスを全て 盾に吸収した。 『さて、お返しだぜ!』 そうして蓄えたガスは逆流させ、ボルケラー自身に浴びせた。 「キャアアァァ!?」 自分の身体の上で炸裂が発生し、ボルケラーは大いにひるんだ。その隙をみすみす逃すゼロではない。 『ストロングコロナゼロッ!』 青と赤の姿から赤一色の姿へと変化し、ボルケラーに詰め寄って拳の連撃を食らわせてやる。 『うっらあああぁぁぁぁぁッ!』 「キャアアァァ!」 重い打撃を連続で受け、ボルケラーはたちまちグロッキーとなってその場に倒れ込んだ。 『よぉしッ!』 転倒したボルケラーをゼロは頭上に高々と持ち上げると、超視力で出現した地点と思しき 大地の裂け目を見やった。そして、 『てぇぇぇぇぇぇいッ!』 ストロングコロナの超パワーで、そこに放り込む! 見事シュートは決まり、ボルケラーは 頭から裂け目の中に突っ込んだ。 さすがにたまらなくなったのか、ボルケラーは慌ててそのまま地中へと潜り込んでいった。 全身が地面の下に隠れると、裂け目がぴったりと閉じる。これでボルケラーがまた地上に 出てくることはないだろう。 「ジュワッ!」 怪獣を地底に帰したゼロは両腕を空に向けて伸ばし、飛び上がってこの場から去っていったのだった。 学院に帰り、変身を解いたゼロだが、ルイズの部屋に戻る前にゼロと話をする。 『しかし、ここのところ妙だな……。おかしな怪獣の出現が連続してるぜ』 「ああ、そうだな……。これで三度目だ。三度続けば偶然じゃないって言うよな」 ゼロも才人も、そのことを訝しんでいた。ティグリス、ホオリンガ、そして今回のボルケラー……。 明らかに普通ではない様子の怪獣が、短期間に三回も出現した。普通では考えられないことだ。 『しかも奴らは全員、この学院に一直線に向かってきてた』 「え? ティグリスもそうだったか?」 『思い出せ。あいつは俺たちが通った、学院とトリスタニアをつなぐ道のちょうど反対側から 進んできてた。きっと、目的地はトリスタニアじゃなくて、その先の学院だったんだ』 そう言われてみれば、そうだ。あの時はそこまで気がつかなかったが、こうしてみたら、 三種の怪獣に正気ではないこと、学院を目指していたことの二つが共通点となる。 「でも、誰が何のために怪獣たちを学院にけしかけてるんだ?」 『分からないのはそこだ。この前も言ったが、仮に侵略者とかが学院を狙ってるなら、こんな 回りくどい手をわざわざ取る必要性が理解できねぇ』 確かに、今まで学院を狙った者はもっと直接的な手段に訴えてきた。今更こんな迂遠な方法を 採用する者が果たしているのだろうか。 『もう一つ分からないのは、怪獣を操るやり方だ。あいつらが普通の状態じゃないってのは 散々言ってるが、もっと具体的に言うと……そう、寝ながら動いてるって感じだ。動きがいちいち 単純なのも、そこが原因だと思う』 「寝ながら……?」 『どうせ操るなら、何で普通に起きてる状態で操作しない? あるいは、それが出来ないのか……』 「寝てる怪獣だけを操る……そんな能力ってあるのか?」 『少なくとも俺は、聞いたことないけどな……』 悩む二人。しかしいくら考えても、答えは見つからない。 『あー、判断材料が足りなすぎる。しょうがないから、一旦置いとこう。問題はそれより、 怪獣の出現地点がだんだんとここに近づいてきてることだ』 「そう言えば、確かに……」 ティグリスの時はトリスタニアを挟んだ遠方だったが、ホオリンガ、ボルケラーと続くにつれ、 ゼロの言う通りに学院に接近している。次は、もっと近くから出現してしまうかもしれない。 『そうなったら事だ。ここは本腰入れて、怪獣出現の原因に探りを入れる必要があるぜ』 「分かった。明日はとりあえず、この学院を一番に調べてみよう」 『だな。目的のここに、何かしらの手掛かりがある可能性が一番高いだろう』 明日の行動方針を決定すると、才人はようやくルイズの部屋へと戻っていった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9331.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百二話「閉ざされた夢幻」 暗殺宇宙人ナックル星人グレイ 夢幻魔獣インキュラス 夢幻神獣魔デウス 登場 リシュに夢の世界へ囚われた才人を救出するため、クリスの力で夢の世界へと侵入したルイズ。 だがサキュバス・リシュの力は自分の想像をはるかに超えたものであった。勝ち目がないと、 ルイズは心が折れそうになったが、そこに塚本たちの激励を受ける。更にルイズの応援にやってきた デルフリンガーの分析により、サキュバスも夢の中で完全に無敵ではないということを知った。 操られている才人の心を取り戻すことさえ出来れば、サキュバスの力に打ち勝つことが出来る……。 ルイズは一世一代の大勝負に出ることを決意したのだった。 翌日――夢の世界で『翌日』と言うのも奇妙な感じだが、とにかく翌日だ――、ルイズは 放課後に才人を校舎の屋上へと呼び出した。ここで白か黒かの決着をつける覚悟だ。 この場にはリシュもついてきていた。ルイズはそれを許可していた。どうせ遠ざけようと したところで、サキュバス相手には無意味だ。ならば初めから姿が見えている方が、相手の出方が 窺えてまだいいだろう。 ナックル星人とインキュラスの姿はない。どこかに控えて様子見をしているのか、はたまた リシュに勝てるはずがないと高をくくっているのか……。その代わりのように、リシュは初めから 生徒の擬態を解いてサキュバス本来の姿を取っている。才人も見慣れたパーカーの格好だ。 屋上には昨日と同じ結界まで用意されていた。ルイズが本気だというのを感じ取り、向こうも 決着をつけるつもりなのか。しかしどちらにせよ、やることは変わらない。 「ルイズさん。昨日の……」 「勝手についてきた人は黙ってて。わたしはサイトに話があるのよ」 リシュが言いかけたのを、ピシャリとはねつけるルイズ。会話の主導権を渡してはならない。 ルイズの言葉が、才人の心に訴えかけられるかどうかが勝負の鍵なのだ。 リシュが何もしない内に、ルイズは才人へと懸命に呼びかけ始めた。 「サイト……。トリステインでのことを思い出して」 「トリ……? 何だ、それ。どこ?」 「わたしが春の使い魔召喚の儀式で、あんたを呼び出して使い魔にしたでしょ。それから、 サイトは何度もわたしを守ってくれた。この前はみんなで舞踏会を開いたりして、がんばったじゃない!」 と言っても、ハルケギニアでの記憶を全て消されている才人はポカンとしているだけだ。 だがルイズは諦めない。ここまで来て、もう諦める訳にはいかないのだ。 「それだけじゃないわ。あなたはウルトラマンゼロと一体となって、ハルケギニアのウルトラマン として日々世界を守ってた、いえ、守ってるのよ! あなたの隣には、わたしだけじゃない、 ミラーナイトやジャンボット、グレンファイヤーたちの、たくさんの仲間がいる! みんなが、 あなたが帰ってくるのを待ってるのよ! その左腕のブレスレットを見て!」 今の才人はリシュの力で、ウルティメイトブレスレットを見えなくされているが、ルイズの 言葉によって様子に変化が起こり出す。 「う、ウルトラマン……俺が……? でも、確かに大切なことがいっぱい、俺の胸の中に……。 あれ、この腕に嵌まってるのは……」 「サイト!? 思い出してきたの?」 徐々に才人が元に戻ってきているのを感じて、ルイズの顔が輝いた。彼とゼロの築いた絆は、 数多の戦いを乗り越えたことで、いくら夢を操られてごまかされようとも、決して断ち切ることが 出来ないものにまで育っていたのだ。 だがリシュとて、このまま才人が覚醒するのを看過してはいなかった。 「サイト、騙されては駄目!」 「騙す……? ルイズが、俺を……?」 「ルイズさん……いえ、ルイズ。昨日言ったこと、完全に忘れたようね」 リシュの目尻が吊り上がり、ルイズに威圧感を掛けてくる。しかしルイズがもう退くことはない。 「ええ、忘れたわ。わたしの記憶をいじれると言ったのは嘘だって分かってるんだから! もう負けないわよ!」 「……それならこういうのはどう?」 だが、リシュは意外な手段に訴えてきた! 「サイト……。わたしたちは宇宙人に命を狙われているのよ!」 「なッ!?」 仰天するルイズ。リシュはいきなりそんなことを言って、一体何をするつもりなのか。 「んッ!? そ、そうだったか?」 「ええ、そう。あなたはもう数え切れないほどの宇宙人に襲われたじゃない。そこのルイズも 宇宙人よ! あなたを殺そうとしてるの!」 ここでルイズはリシュの意図を理解した。よみがえりつつある才人の記憶を逆に利用し、 ルイズを敵に仕立て上げようとしているのだ! 「だから、いつものように倒して! その剣で!」 いつの間にか、才人の手には剣が握られていた。 「……そうだな。この剣で斬り伏せる、今すぐに……」 そして才人は、すっかりリシュの言いなりとなってルイズを敵視する。 「う、嘘でしょ!? あっさりと……何で!?」 「大したもんだな、サキュバスの力ってのは。そう出るとはさすがに予想外だ。どうするか……」 「サイト……。斬り伏せるって、わ、わたしを? 冗談よね? ねぇ?」 呼びかけるルイズだが、才人の目は本気だ。完全にルイズが侵略宇宙人に見えてしまっているようだ。 「娘っ子! この殺気は冗談じゃねえ、一旦逃げた方がいい!」 デルフリンガーが警告したが、ルイズは拒否した。 「嫌! ここで逃げたら……サイトはもう二度と、わたしのところに戻ってこないわ!」 ルイズは女の意地で才人に背を向けず、必死に呼びかけ続けた。 「サイト、思い出して! あなたはわたしの使い魔! 誰にも渡さないの!!」 「……使い魔?」 「いい加減にしなさいよ、馬鹿使い魔! あんた、わたしのことが好きって言ったじゃない! 忘れたの!?」 ルイズの言葉で才人が一瞬揺らいでも、リシュが暗示をその都度掛け直す。 「敵の戯言を聞いては駄目よ」 「ああ、そうだな。敵の戯言を聞いては駄目だ……」 だが、才人の返事には妙に力がなかった。 「!? ど、どうしてそんな声なの、サイト!?」 「ありゃ、もしや……相棒の心がサキュバスの力に反発してるのか?」 デルフリンガーは才人の握る剣を見やって、ハッと気づいた。 「そうか、剣を持ったからか! 怪我の功名って奴だなぁ。娘っ子、もっと呼びかけてやれ!」 策士策に溺れる。リシュは才人に武器を持たせたことで、ガンダールヴの力を発動させて しまったのだ。それで才人に抵抗力が生じた。 ここぞとばかりに才人の名を呼ぶルイズ。 「サイト……サイト……!」 「お前は俺の敵なんだ……。敵は倒さなくちゃいけないんだ……」 しかしまだサキュバスの支配を破るには不十分なのか、才人の催眠状態は解けない。ルイズは 才人の心が自分に応じないことが悔しくて、涙が浮かんできた。 「さ、サイトのバカッ! バカバカバカバカバカバカバカぁッ!」 ぐすぐすと泣きじゃくるルイズに、才人の剣が迫る……! ……が、その切っ先が不意に下ろされた。 「え……?」 「サイト!? どうして剣を下ろすの!?」 リシュが問いかけると、才人はどこか目が覚めたかのような感じを漂わせながら、答えた。 「……この子、泣いてるじゃないか。それを斬る訳にはいかないよ」 「そ、そんなの、こっちを油断させる罠よ! 敵は倒さなくちゃいけないのよッ!」 リシュは必死になって暗示を掛けるが、才人は従わなかった。毅然とした口調で、返した。 「いや……敵を倒すことだけが、強さじゃない。力には――優しさがなくちゃいけない。 それが、俺が教わった大事なことだ……!」 「サイト……!」 ルイズは感極まった。それは、ゼロがいくつもの戦いの中で教えてくれたこと。その想いは、 才人の心に決して変わらないものとして息づいていた。その想いが、ルイズを助けてくれたのだ! 「今だ! 娘っ子、行ってやれ!」 デルフリンガーの指示により、ルイズは才人の胸の中へと飛び込んでいく。 「サイトっ!」 ルイズがぐっと顔を才人に近づけ――二人の唇が、重なった。 その瞬間、才人の手の甲のルーンが輝いた。同時に、ブレスレットのランプに青い輝きが戻る。 閉鎖空間も破られ、空が晴れ渡る。 「……そうか」 「サイト……思い出した?」 「……ああ。ごめんな、ルイズ。全部思い出したよ」 「サイトぉっ!」 才人の意識は、記憶は完全に戻った。ルイズは才人に抱きつき直り、才人はそれを優しく受け止めた。 「おはようさん、相棒。全くとんだねぼすけだよ、おめえさんは」 「デルフ!? この端末が?」 「情けねえが、そういうこった」 『俺のことも忘れるんじゃねぇぜ、才人!』 ブレスレットから声が発せられた。才人の目はブレスレットも捉えられるようになっていた。 「ゼロ! 悪い……俺に引っ張られて、お前まで意識を封じられちゃって」 『いや、俺自身、完全にリシュの術に嵌まっちまってたよ。一生の不覚だぜ……』 自嘲するゼロ。才人復活の喜びを分かち合う彼らの一方で、リシュは衝撃を受けてよろめいた。 「あ、あたしの魔力から……この世界の戒めから逃れた!?」 「リシュ……」 リシュの方へ振り向く才人に、ルイズが尋ねかける。 「どうするの? やっつけるの?」 「大丈夫。これは俺の夢なんだから、リシュをどうにかしなくても帰れるさ、現実に」 と言う才人に、リシュがすがるように呼びかけた。 「……サイト。元の世界に戻ってどうするの? またそのルイズにこき使われて……危険な戦いの 日々を送るだけよ!? この世界で一緒に楽しく生きる方がいいに決まってるわ!」 叫ぶリシュに、才人は答えた。 「確かに、やり方は許せないけど、ここは楽しくて戦いの危険もない、理想的な世界だったよ。 でも……ハルケギニアで、ゼロやルイズたちみんなといる日々は、俺をたくさん成長させてくれた。 そして成長させてくれる。それは、この閉ざされた世界じゃ決して得られない……何物にも 代えられない宝物なんだ」 「さ、サイト……」 「リシュ、お前ももうこんなことはやめて、現実の世界で生きよう。お前には悪意なんてない。 それは夢の中でよく分かった。俺たちと、現実の世界で生きることが出来る」 と才人は説得したが、リシュは頭を大きく振って拒否した。 「そんなこと出来ないわッ! あたしには……現実の世界で、生きられる場所なんてどこにもないものッ!」 「リシュ……?」 絶望したように頭を抱えるリシュに、ゼロが問うた。 『リシュ、そもそもお前は、どうして才人を夢の世界に連れ込んで、二人だけで生きていこうとしたんだ?』 それにリシュは、疲れ果てたかのような表情で答え出す。 「あたしは……サキュバスは、世界のどこに行っても迫害されてた。あたしたちは危険だと 決めつける、人間の一方的な都合で……」 「……!」 表情が強張る才人たち。ルイズは思い出す。サキュバスは、人間にとって危険であるがために 封印されたと。しかし、サキュバス自身に人間への悪意がないのならば……それは人間の迫害と なるのだろう。 「あたしも人間からの攻撃で傷ついてたところを、ある日人間の男性に助けられたわ。 そしてあたしたちは恋に落ちた……。でも、もちろんその関係は長く続かなかった。 人間は執拗にあたしを追い続け、その末にあたしの愛したあの人は命を落とした……」 「そんなことが……」 「あたしは絶望して、自ら封印された。けれど長い時を経て、封印が緩んできた頃に…… あたしは誰かの不思議な夢を垣間見た。それがあなたの夢よ、サイト……」 それが、一連の事件の始まりだったのか。リシュは才人の夢に魅せられ、再びの目覚めを望んだ。 それが怪獣の夢を操る形となって、彼女の封印を破らせた。 「あたしは夢を通じて、サイト、あなたが好きになった。でも、前と同じように現実で生きようと したら、前と同じように失敗してまた失う……。だから、今度は誰の邪魔もされないようにしようとした……」 才人を奪われかけたルイズでさえ、リシュに同情した。世界中から受け入れられない迫害と、 自分のために愛する者を失った絶望……その二つを味わったリシュを、どうして責められようものか。 そしてリシュは、魂の叫びを発する。 「どうして!? あたしの何が悪いっていうの!? あたしがサキュバスだということ…… 人間とは違う力を持ってるってことは、そんなにも悪いことなの!? 力があること…… あたしが生きてるということ、それだけで罪になるというのッ!?」 その問いかけに、才人たちはもちろん、ゼロでさえ何も答えられなかった。彼らがここで 何か慰めたところで、リシュが世界から、人間から拒まれるという現実は、何も変わらないのだ。 リシュは、サキュバスは、人間の世界の中に入っていくことが許されない、怪獣と同じ存在なのか……。 『――あぁ~もう、くっだらないッ! あんたにはガッカリだわよ!』 唐突に、野太い女口調が屋上に響いた。 「! ナックル星人ッ!」 見れば、リシュの背後にいつの間にかナックル星人が出現していた。才人はルイズを背にかばい、 剣を構え直す。 だがナックル星人は才人たちを攻撃してはこなかった。代わりに――リシュが伸びてきた インキュラスの手に捕まり、宙に持ち上げられた! 「きゃああッ!?」 「なッ!? どうしてリシュを!?」 才人が目を剥いてナックル星人に問いかけると、ナックル星人は高笑いを上げた。 『オーホッホッホッ! そんなの決まってるじゃなぁい! あの小娘の力を利用するためよッ!』 「何だって!?」 『あの小娘、サキュバスの力というのは広い宇宙でも貴重な、とっても役立つものよ。それを知った アタシは、あれの力を存分に役立たせてもらおうと考えついたの。このアタシのためだけにねッ!』 「くッ……騙したのね……!」 インキュラスに握り締められて身動きの取れないリシュは、せめてもの反抗でナックル星人を 憎々しげににらみつけた。 『あんなので騙される方が悪いのよぉーッ! ちょぉーっと同情した素振り見せて、お友達に なりましょうと誘っただけでコロリと信じて。ずぅっとお眠りしてただけあって、頭の中身は 赤ん坊と同じねぇ~! オ―――ホッホッホッホッホーッ!』 「何て奴……許せないわッ!」 ルイズは激昂して杖を手に取った。リシュの心の隙につけ込む悪質な手口。これが許されて 良いはずがない。 だが、ナックル星人は余裕綽々にジュリ扇をはためかせた。 『あ~ら、アタシに攻撃していいのかしらぁ? そんなことしたら、インキュラスが小娘を 握り潰しちゃうかもしれないわよぉ?』 その言葉に合わせるように、インキュラスはリシュを握る手の力を強める。それで苦しむリシュ。 「あぁぁぁッ……!」 『お人好しのあんたたちは、あの哀れなリシュちゃんを見捨てたりなんかしないわよねぇ~?』 「くッ……!」 真に悔しいが、実際リシュを見殺しにする訳にはいかない。才人たちは歯を食いしばることしか 出来なかった。 才人たちが動かないことでいい気になったナックル星人は、腕を広げて告げる。 『一つ、いいことを教えてあげるわ。現実世界に現れた怪獣を作り出したのは、小娘じゃない。 あの怪獣よッ!』 ナックル星人が指差した先の空が、途端に曇り出して学園は薄暗闇に覆われた。 そして空から巨大な物体が降臨し、大地に降り立つ。 「あ、あれは……生き物なの……?」 ルイズは呆気にとられた。何故なら降りてきたものは、手足はおろか目や口、首と胴体の 区別すらない、完全な球形だったからだ。あれが生物だとして、どう贔屓目に見ても、卵が精一杯である。 だがナックル星人は誇らしげに言い放った。 『あれこそが世界を支配できるほどの力を持った怪獣、その名も夢幻神獣魔デウスッ!』 『何!? あの伝説のッ!?』 ゼロが驚愕の声を発した。ゼロがそこまで驚くというからには、あの球形はそれほどに 恐ろしい怪獣なのか。世界を支配できる力とは、一体。 『その能力は、そんじょそこらの怪獣とは訳が違うわよぉ。簡単に言えば、夢を現実に、 現実を夢に変えること!』 「何だって!?」 衝撃を受ける才人たち。ということは、ギャンゴ、マザリュース、バクゴン、そしてベリュドラも、 あの魔デウスが作り上げているのか。 確かに恐ろしい能力だ。空想が本当に現実になる……サキュバスの能力すら軽く凌駕している。 その力を自在に行使されたら、敵う存在などいるはずがない。 『でも、魔デウスは実在すら疑われてた。夢想の中に存在するとは言われてたけど、操ることは おろか、存在を観測することすら不可能だったもの。けれどアタシは、サキュバスの力を知って 思いついたの。夢を支配するサキュバスならば、魔デウスと接触することが出来るんじゃないかって! 結果は見ての通り成功よぉ~!』 ナックル星人はもう勝利したかのように勝ち誇る。 『魔デウスはサキュバスの力によって操作されてる状態にある。そして小娘の力は、インキュラスの 超能力で支配してる。つまり、魔デウスはインキュラスの主人のアタシの思うがままって訳ぇ~! 最高だわぁ~! 無限に怪獣を作り出す、いえ、世界そのものを塗り替える力がこのアタシのものぉッ! 世界はアタシのものになったのよぉーッ!!』 「くそぉッ……!」 「さ、サイト……!」 ルイズが焦りに焦って才人の顔を見た。だが、才人とゼロにもどうすることも出来ない。 リシュが人質にされている以上は……。 ……その時のことであった。 「――僕の生徒を、これ以上苦しめることは、許さない」 どこかから、誰かの声が発せられた。かなり遠い場所からなのか、才人たちの耳に届いた それはとても小さかった。 『んん? 今のはだぁれ? どこから話してるの?』 「あッ! 校庭に人が!」 ルイズがフェンス越しに校庭を指し示した。彼女の言う通り、インキュラスに向かって 一人の人間が向かっていくところであった。 その人物とは――。 「矢的先生ッ!」 叫ぶ才人。彼はこの夢世界で才人たちの担任であった、矢的猛だ。 それを知り、ナックル星人は失笑した。 『なぁ~んだ、驚かせて。ただの夢の登場人物如きに、何が出来るっていうのよぉ』 「サイト、先生が危ないわ! あのままじゃ怪獣にやられちゃうッ!」 叫ぶルイズ。彼は夢の存在だが、それでも人間だ。それが潰されるのを見過ごすのはいい気分ではない。 ところが、才人はこう答えた。 「……いや、あの人は俺の先生じゃない」 「えッ……?」 キョトンとするルイズに、才人はつけ加えた。 「俺の担任は、全然違う人だよ。もっと年行ってるしさ」 「えぇぇ? じゃああの人、一体誰なの?」 「僕たちの先生だよ!」 突然、そんな声。振り返ると、屋上の扉から十数名の生徒がゾロゾロとこの場にやってきた。 塚本、博士、落語、スーパー、ファッション、他には中野真一や大島明男など……。彼らについても 才人は語る。 「こいつら、いやこの人たちも、俺の同級生じゃない。ていうか、会ったことすらないよ」 「えぇッ!?」 ルイズに、捕まっているリシュまで面食らっていた。才人の記憶の中の人間ではないのならば…… 彼らはどこから来たのだ? それに対して、才人は答えた。 「目が覚めたことで、何もかもを理解したよ。この人たちは――あの矢的先生は――!」 ――才人がこれまで通っていた学校の先生は、誰も彼もが意欲の低い、凡庸な人物ばかりであった。 才人はそのことにすっかり飽き飽きしていた。コルベールを慕っていたのはそういう理由もある。 そんな中で、才人は歴史の授業で、かつて地球を守ってくれたウルトラ戦士には、教師に 身をやつして地球人の心の研究も行っていた者がいることを知った。才人は、ウルトラマンが 自分たちの教師であった過去の子供たちを羨望し、自分の担任もそのウルトラマンだったらなぁと 感じた。その願いは、心の奥底に残り続けた。 ――夢とは、願望の意味もある。才人の夢を操作し、彼の理想の世界に仕立て上げようとした リシュは、才人の無意識の願いもいくつか叶えていた。その中に、この願いが入っていたのだ。 叶えられた才人の願いは、夢の世界を通して宇宙を越え、才人が熱望した『先生』自身の 意識とつながった。そうして、『彼』はこの夢世界の中に入ってきた。同時に『彼』の記憶も 才人のものと混ざり込み、『彼』が受け持った生徒たちが才人のクラスメイトに混ざり、 『彼』が地球で戦った怪獣たちの一部も夢の中で復活した。才人とゼロが戦った怪獣の 正体とはこれである。 その才人が望んだ、『先生』の名前は――! 矢的は目の前にそびえ立つインキュラスを見上げ、その手の中のリシュに呼びかけた。 「リシュ君、君はかりそめの生徒かもしれないが、それでも僕の生徒だ。僕は先生として、 君を必ず助ける!」 「ヤマト先生……」 つぶやくリシュが見下ろす先で、矢的はバッバッと右腕、左腕の順で拳を前に突き出し、 そして右手に握り締めたペンライト状のもの――ブライトスティックを天高く掲げた! 「エイッティ!!」 ブライトスティックが輝き、矢的の姿が一瞬にして大巨人へと変身した! 『う、嘘ぉぉぉぉんッ!?』 「あ、あれは……!」 ナックル星人も、リシュも、ルイズも唖然とした。インキュラスの前に立った巨人は、 赤と銀の体色、丸顔に柔和さを存分に湛えた、しかし同時に力強さを宿した……紛れもない ウルトラ戦士である! 矢的の変身と合わせるように、塚本たちの姿もいつの間にか高校生――実際は中学生だ―― から、立派な大人のものに変化していた。 彼らはルイズのひと言に答えるように、口々に叫ぶ。 「あれは!」 「ウルトラマン!」 「80!」 「俺たちの!」 「ウルトラマンだ!」 「矢的先生……矢的せんせーいッ!!」 塚本が、彼らのウルトラマン――ウルトラマン80へ向けて力いっぱいに叫んだ。 遠くの星から来た男が、今! 愛と勇気を教えてくれるのだ!! 不思議な夢が才人を覆った! 調査に乗り出した才人はリシュに夢の世界に囚われた! その頃、同じ夢をあるウルトラ戦士がキャッチし、夢の中に入っていた! その前に、 突如として出現した二匹の怪獣! 才人は卑劣な罠に落ち、ウルトラマンゼロへ変身できない! ゼロ危うし! ナックル星人の計略に、ゼロの自由が失われた! ウルトラマンゼロ最大の ピンチに、矢的猛が、ウルトラの戦士80に華麗な変身をした! 次回『ウルトラマン80の使い魔』、「ゼロ最大のピンチ!変身!ウルトラマン80」! 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9360.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百十六話「弄ぶ眼」 奇獣ガンQ 登場 ガリア王国からタバサを救出し、遂に魔法学院へと帰還を果たしたルイズたち。しかしそれから ほどなくして、すぐに次の冒険がアンリエッタによってもたらされた。 ルイズたちはティファニアをウエストウッド村の子供たちごとトリステインまで保護するよう 命じられたのだった。やはり、ガリアが暗躍を見せる中で誰にも守られずにいるというのが心配 とのことだった。 道中目立ってはいけないので、アルビオンに向かったのはルイズ、才人、ギーシュ、タバサと キュルケの五人という少人数だった。本来は前者の三人だけのはずだったが、学院を出発した ところでタバサたちが同行してきたのだ。しかもそれを決めたのは、意外にもキュルケではなく タバサの方だという。シルフィードに乗せてもらえたので、結果的には大助かりではあるのだが……。 タバサの見せた積極性を、才人はいささか怪訝に思った。彼女は直前にも、侵略者ではなく 国家そのものを敵に回すということでとりあえず読み書きが出来た方がいいだろうと思い立ち、 勉強を始めた才人とばったり鉢合わせになると、何を思ったかその手伝いをしてくれたのであった。 お陰でとてもはかどったのだが……確かに今までにも何度も危ないところを助けてくれたとはいえ、 平時までこんなにも積極的に協力してくれるのは初めてのことだった。ガリアから救い出したことに 恩義を感じているのかとも思ったが、それならルイズたちにも同様でないといけない。今のところ、 それらしい様子は見られなかった。 タバサのそんな変化の原因について、彼女の親友キュルケに尋ねたところ「きっと、あなたは 特別なのよ」と何やら意味深な答えをいただいた。それはどういう意味なのか、才人にはよく分からなかった。 ウエストウッド村の入り口に到着してから、チラ、とタバサの顔を一瞥する。 「パムー」 タバサの頭の上のハネジローがひと鳴きした。ハネジローはタバサにベッタリなほど懐いており、 ウエストウッド村にまでついてきてしまったのだった。それはともかく、肝心のタバサの方は相変わらずの 無表情で黙りこくっており、何を考えているのかは窺い知れなかった。 黙りこくっているといえば、もう一人……ルイズもタバサに負けないくらい静かで、しかも 纏う雰囲気がどこか重かった。 キュルケが才人をつつく。 「ねぇサイト。ルイズ、一体どうしちゃったの? 朝から変よ。黙っちゃって……」 「いや……実はな」 才人が事情を打ち明けると、キュルケは驚いた声を上げた。 「まあ! 精神力が!」 「しッ! 声が大きいよ」 実は今のルイズは、精神力を使い果たして魔法を撃てない状態に陥っているのだった。 それが発覚したのは、前述のタバサに読み書きを教わったことに連なる混乱の際。タバサが 才人をいやに親しくしているのをルイズが邪推し、そこからなんやかんやあってまぁいつも通りに ルイズが憤怒して爆発を食らわそうとしたのだが……何も起きなかったのだ。他の魔法も一切、 発動しなかった。 このことについてデルフリンガーが、ルイズの精神力が底を尽きたのだと語った。しかも “虚無”の魔法の場合は普通の系統魔法よりも溜めるのに長い時間が掛かり、いつ回復するかは 彼にも分からないという。 「強いってことは、それだけ使いづらいってことさ。むしろ今まであれだけバカスカ撃ってて、 よく持ってたもんだよ。恐らく、相棒がそうだったように、娘っ子もでっけえ悪を前にした際の 感情の高ぶりで精神力を生み出してたんだろうな。だがそいつも遂に限界が来たんだろうね。 そうそう上手い話はねえってことさね」 それで朝から落ち込んでいたルイズではあるが、どうもそれだけではないようだった。 出発時に彼女へ実家からの手紙が届いたのだが、それを読んでからますますひどくなった ように見える。アンリエッタを前にした時も、ひと言も発しなかったくらいだ。 どんな内容が書いてあったのかは知らないが、あの厳格な家族の元から送られてきたものだ。 きっと今のルイズに追い打ちを掛ける内容だったのだろう、と才人は考え、ひとまずはそっと しておくことにした。 「あらら、じゃあゼロのルイズに逆戻りって訳? でも、爆発すらしないんじゃ、更に重症ね」 「言うなよ。気にしてるんだから」 「でも、そっちの方がいいんじゃない?」 キュルケが真顔で言った。 「何でだよ」 「あの子に“伝説”なんて、常々荷が重いって思ってたの。あたしぐらい楽天的な方が、 過ぎたる力にはちょうどいいのよ」 そうかもしれない、と才人は思った。 さて、一行はティファニアの家の前に並んだ。藁葺きの屋根から、煙が立ち上っている。 「お、いるみたいだな」 「いやぁ、こんな簡単な任務でいいのかねぇ。いつもの怪獣に追われるような苦労に比べたら、 何だか拍子抜けしてしまうよ」 ギーシュが鼻歌交じりに言った。 「もう、ほんとにお前ってば緊張感がない男だな」 「きみに言われたくないな。というか最近のきみはおかしいぞ」 「俺が?」 「そうさ。何だか妙な使命感に振り回されているように感じるよ。昔のきみはもっとこう、 適当だったじゃないか」 「そうか?」 「ああ。もっと気楽にいきたまえよ。気楽に! あっはっは!」 確かに言われてみれば、最近はどうガリアに立ち向かうかということばかり考えているような 気がすると感じる才人だった。しかし状況が状況だし、幾度もの戦いを越えて戦う勇気を手に したのだ。考え方の一つくらいは変わるだろう、と重くは受け止めなかった。 「そんな油断してるとね、ろくなことがないわよ」 キュルケがギーシュに呆れた目つきを送った。 「望むところさ! ウチュウ人でも何でも来い! さてと、この家だな」 ギーシュは調子づいて、ティファニアの家の扉の前で声を張る。 「ご家中の方に申し上げる! オンディーヌ隊長、ギーシュ・ド・グラモン! 王命により 参上つかまつった! では御免」 返事もなしに扉を開けたギーシュが、一瞬で固まる。 「何よ。どうしたのよ。ほんとに中にウチュウ人がいたの?」 キュルケも中を覗き込むと、やはりその身体が硬直した。 才人とタバサは顔を見合わせて、二人同時に扉の中に顔を突っ込んだ。家の中にいた二人の 人物の姿に、才人たちも固まった。 一人はティファニア。こちらに呆然とした顔を向けている。しかし懐かしいティファニアに、 声をかける余裕さえなかった。残りの一人が問題だったのである。 タバサがつぶやく。 「フーケ」 もう一人は、学院から破壊の杖――スパイダーと青い石を盗み出そうとした盗賊であり、 ウェールズを一度殺害したワルドに協力していた女であり、タルブの村を焼き、あの悲惨な アルビオン戦役の原因となったレコン・キスタに与していた、フーケがそこにいたのだった。 そこから、一時は大混乱となった。激昂した才人がフーケに斬りかかり、激しい決闘が 始まろうという事態にまでなった。しかしそれを止めたティファニアによって、フーケの 意外な事実が明らかとなった。フーケの本名はマチルダであり、彼女の父が仕えていた 相手でありフーケの命の恩人の娘がティファニアだということが。どこから捻出されているか 不明だったウエストウッド村の生活費は、フーケによって賄われていたのだ。もちろん、 フーケは己の仕事をティファニアには秘密にしているのだが。 憎き相手ではあるが、ティファニアの姉代わりだという彼女をよりによってティファニアの前で 倒すことは出来ない。才人たちは仕方なしに、フーケと同じ空間を過ごすことになった。ずっと ギスギスした空気が漂い、ハネジローだけが同じ小怪獣のミーニンに興味を持って戯れていた。 そして本題である、ティファニアのトリステインによる保護に関しては、意外にもフーケが賛同した。 その晩、さっさと帰り支度を行うフーケを才人は呼び止めて問いかけた。 「俺たちがどうしてテファを連れていこうとするのか、聞かないのか? 心配じゃないのかよ」 フーケは微かに寂しそうな表情を浮かべて、答えた。 「どんな道だろうが、わたしと行くよりは、マシだからさ」 そのひと言に、フーケも己の現状に思うところがあるのかもしれない、と才人は一瞬思った。 フーケはローブを深く被ると、才人に告げた。 「あんたもたまには、故郷に帰るんだね。親に顔を見せてやりな。わたしみたいに、帰る場所が なくなっちまう前にね」 その言葉が、才人の頭の中に残った。 眠れない才人はティファニアの家の外に出て、ぼんやりと月を見上げながらフーケに言われた ことを脳裏で反芻していた。 『故郷に帰るんだね』 そう言われても、ゼロと合体している内は帰ることは出来ない。 しかし……いざ分離する時が来たとしても、自分は地球に帰ろうとするのだろうか? どういう訳か、その欲求が湧いてこないのだ。何だか、自分のことでない話のように感じる……。 「サイト」 不意に名前を呼ばれ、振り返ると、ルイズが傍に来ていた。ずっと黙っていたのにどうしたのだろう、 と手を伸ばすと、ルイズの頬が濡れているのが触感で判明した。 ルイズは泣いているのだと、才人は慌てた。 「おい、どうしたんだよ。泣いてるじゃねぇか」 才人の言葉を無視して、ルイズは言った。 「あんた、帰りたくないの?」 「……え?」 「故郷に、帰りたくないのかって、聞いてるの」 「どうして、いきなりそんなこと聞くんだよ」 「答えて」 才人はゆっくりと、最近いつも繰り返していた言葉を口にした。 「いや、こっちの世界で、やれることをやってから帰ろうっていうか……」 「嘘」 「嘘じゃねぇよ」 「じゃあ、どうして、ちいねえさまには故郷のことを相談したの? わたしにはそんなこと、 ひと言も言わないのに」 才人は一瞬、呆気にとられる。 「どうして、お前が知ってるんだよ」 「ちいねえさまからの手紙に書いてあったのよ」 手紙を差し出すルイズ。それを受け取った才人は、月明かりの下で読む。タバサに教えて もらったお陰で、字を追うだけで内容が頭に飛び込んできた。 そこには、故郷を想っていた才人が心配であること、ルイズには才人を故郷に帰す義務が あることが書かれてあった。 涙で顔をぐしゃぐしゃにして、ルイズは言った。 「どうしてあんたは、わたしに本音を打ち明けてくれないの?」 才人はその理由を考える。惚れた女には弱みを見せたくないから……だけではない気がした。 そもそも、ルイズの前で故郷を意識したことがほとんどないのだ。 ルイズの後ろから、小さな声が答えた。 「使い魔だから」 「タバサ」 タバサがいつの間にか外に出てきていた。ルイズは自分に言い聞かせるように言った。 「そう。タバサの言う通りなんだわ。だからあんたは、わたしが傍にいると、帰りたいと 心の底から思わない。いや、思えない。こっちの世界に、いなければならない理由まで 作り上げて、あんたはわたしの傍にいようとする。いや、させられてる」 「違う。それは違う。それは……」 才人は否定しようとしたが、し切れなかった。ルイズの言うことは、筋は通っている。 タバサが語る。 「使い魔は、主人の都合のいいように“記憶”を変えられる。記憶とは、脳内の情報全てのこと。 あなたが簡単な勉強で、わたしたちの文字を覚えたのもそう。あまり故郷のことを思い出さない のもそう。そして“ガンダールヴのルーン”は、あなたの心の中に『こっちの世界にいるための 偽りの動機』を作ったのかもしれない。あなたは本当の気持ちをごまかされてる可能性がある」 「そんなことがあるのかよ?」 「その効果は、時間が経つにつれ、強くなる。使い魔が徐々に慣れ、最後には主人と一心同体にも なるのは、そういうこと」 「パム……」 タバサの頭の上のハネジローが、不安げな視線を才人に向けた。 「おいおい、そんな、自分が自分でなくなるなんて、そんなことが……」 才人がそう言ったら、背負っているデルフリンガーが発した。 「まあな、自分のことは、自分が一番分からんもんさ」 才人は思い悩む。タバサの言うことは真実なのか。自分は心を、知らず知らずの内に変えられて いたのか。もしかしたら、ゼロとともに戦う勇気までも、ルーンによって作られた感情では……。 「い、いや、それだけは絶対に違う! 作りものの勇気で、試練を乗り越えられたはずがねぇ! 俺の中に芽生えた勇気だけは本物だ! なぁ、そうだよな!?」 左腕のブレスレットを持ち上げて、ゼロに助けを求める。ゼロからの返答はこうだ。 『ああ。お前の勇気は本物だと、俺が保証するぜ。お前の熱い心の震えを肌で感じれば、 それは確かに分かる』 一瞬安堵する才人だったが……。 『けど、勇気は己の本心を覆い隠すためのものでもねぇ。……才人、お前は自分の偽りのない 本当の気持ちと向き合う必要があるのかもしれない』 「い、偽りのない本当の気持ちなんて……そんなのどうすれば」 才人が戸惑っていると、ティファニアたちまで目を覚まして才人たちの元に来た。 「サイト、それ、本当なの?」 「ティファニア」 「あなたの気持ちが偽られてるとか、記憶を変えられてるとか……」 「分かんねぇ。自分がどうなのか、自分じゃよく分からねぇ」 正直につぶやくと、ルイズがティファニアの方を向いた。 「ねぇ、ティファニア。あなた、記憶を消せるじゃない。その部分を消すことが出来る? ガンダールヴのルーンが作った才人の心の中の、『こっちの世界にいるための偽りの動機』を 消すことが出来る?」 「分からないけど……」 「出来るだろうさ。“虚無”に干渉できるのは、“虚無”だけだ」 「おいおい、人の心に勝手なことすんなよ!」 才人は叫んだが、デルフリンガーは取り合わずにルイズに問いかける。 「でもな、娘っ子……。その部分を消したら、お前さんへの気持ちもなくなっちまうかもしれないんだぜ」 「いいわ」 ルイズはきっぱりと言って、涙を拭いながら気丈に言い放った。 「め、迷惑だもん。す、好きでもない男の子に言い寄られるなんてひどい迷惑だわ。勝手に ナイト気取りでおかしいわよ。ほっといてよ!」 「ルイズ……お前……」 「ほら、さっさと魔法をかけられて、元のあんたに戻るがいいわ」 「ルイズ!」 ルイズは駆け出したが……一旦立ち止まり、うつむいて言った。 「わたし、お手伝いしたいけど。今のわたしじゃ無理よね。本当のゼロのルイズじゃ……」 ルイズはそれだけ言い残すと、この場から逃げていく。追いかけようとした才人の腕を、 キュルケとギーシュが掴んだ。 「離せよ! 離せ!」 「ぼくはね、きみを友人だと思う。だからこそ、こうした方がいいと思うんだ」 「あたしも同じ気持ちよ」 二人は珍しく真剣な顔で、うなずき合う。 更に才人の耳に、虚無のルーンが聞こえてきた。 「ティファニア……」 見ると、真剣な顔をしたティファニアが、才人に向かって虚無のルーンを唱えていた。 呪文が完成し、杖が振り下ろされると……才人の意識に色んな光景が現れてきた。 学校から帰ってきて、くぐった自宅の玄関。いつも観ていたテレビの番組。電話越しの クラスメイトとのどうでもいい会話。隣の席だった女の子。母の味噌汁の味。そして母の顔……。 それまで抑圧されていたものが解放されると、才人の目からどっと涙が溢れ出た。 「……帰りてえ。帰りてえよ」 そのつぶやきを最後に、才人は意識の糸が切れた。 翌日の早朝、ルイズたちはロサイスへの道をとぼとぼと歩いていた。 昨晩に気を失い、それから一度も目を覚まさなかった才人はウエストウッド村に置いてきた。 タバサが才人についていると言ったので、彼らは陸路でロサイスを目指しているのだ。 「ここからロサイスは五十リーグは離れてるんだろ? そんな距離を歩くなんて、いや、 随分と大変だな」 「仕方ないでしょ。タバサが残るって言うんだから。サイトが国にすぐには帰れないって、 そんなに遠いところなの?」 黙って唇を噛んでいるルイズに、キュルケが囁きかける。 「なんてね。ほんとはあたし、知ってるの。サイトが別の世界とやらから来た人間で、 ウルトラマンゼロの正体ってこと。タバサと一緒に気づいたのよ」 チラッとルイズに視線を送るキュルケ。 「しかしまぁ、あんたも冷たいわよね。何回もお世話になったサイトを置いていっちゃうなんて」 ルイズは押し黙ったまま、何も答えない。 「ねぇルイズ」 「何よ」 「ほんとはあなた、怖いんでしょ」 「何が」 「サイトの自分に対する気持ちが、使い魔としての気持ちだったらどうしようって……。 あなたはそれを見たくない。だからこうやって結果を見届けずに逃げ出してる」 「違うわ」 「タバサが“預かる”って言ってくれなかったら、どうするつもりだったの? 放っておいたの?」 「そんなことしないわ。姫さまが急いでティファニアを連れてこいって言うから、仕方なく 先に行くだけよ。タバサがそう言ってくれなかったら、そりゃ残ってるわよ」 「言い訳だけは一人前なんだから」 「言い訳じゃないもん」 「もし、サイトのあなたに対する想いが、使い魔のそれだったら、あなたはどうするの?」 「どうもしないわ。サイトがゼロと別れられる時が来たら、見送ってあげる。それだけだわ」 「じゃあその想いが、サイト自身の本物だったわ?」 「か、変わらないわよ」 「今、照れたわね」 「照れてない。照れてないわ!」 「ほんとに分かりやすい子ね。あなた。やっぱり大好きなんじゃないの。サイトのこと」 「勘違いよ! 馬鹿!」 「ねぇルイズ。あなたの今の行動、卑怯よ。相手の気持ちが偽りだったとしても、あなたの 気持ちがそうじゃないならいいじゃない。今度こそ、自分自身の魅力で勝負すればいいだけの話だわ」 「……わたし、好きじゃないもん」 と自分に言い聞かせるルイズだったが、目からは涙がこぼれた。 本当は分かっているのだった。キュルケの指摘が紛れもない真実だということを。彼女に とってはどんな大怪獣よりも、才人の自分への感情が偽りだったということを確かめることの 方が怖いのだ。だからこんな風にみっともなく、尻尾を巻いて逃げ出している。 才人と過ごした時間が、思い出が、掛けられた言葉が、全部嘘になってしまう。この世で 何より大事なものが……。どんなに成長しようとも、それを確かめられるルイズではなかったのだ。 最後尾のギーシュは、一人うなっていた。 「何だか哀れになって、サイトの“こっちの世界にいるための偽りの動機”とやらを消すことに 賛成してしまったが……考えてみたら余計に可哀想なことをしてしまったんではないかな」 もしかしたら才人は、そう思うことで精神のバランスを取っていたのかもしれないのではないか、 とギーシュは今更ながらに考えていた。『こっちの世界で自分が出来ることをする』というのは、 使い魔だからというだけでなく、精神のバランスを取るために、才人の心が生み出した苦肉の策では ないのか。 でも、才人は故郷に帰ろうという素振りを見せたことはついぞないではないか、とも思い、 自分がもし使い魔として召喚されたら? と想像した。 「うーむ」 しかし上手く想像できなかった。ハルケギニアしか知らないギーシュには、他の土地の ことなんて思い描けなかった。 そのため考え方を変えてみた。今の才人の置かれている状況を、自分に当てはめてみたのだ。 まず女の子がいて、次にメイドの女の子がいて、もう一人小さな女の子がいて、最後に ハーフエルフだが巨乳の女の子。そして忘れちゃいけないのが、 「みんな可愛い、という点だな、うん」 ギーシュははた、と膝を叩いた。何だ、そんな場所に召喚されたら、帰る必要なんかないじゃないか! 何とも浅はかな結論にたどり着いたギーシュは、この事実を落ち込んでいるルイズに教えて やろうと駆け出そうとしたが、その時に後ろから肩をちょんちょんとつつかれた。 「ん? 誰だね。今、忙しいんだ。後にしてくれたまえ」 再び、その肩が叩かれた。 「全く、ぼくの肩を叩く奴は誰だ?」 ふと疑問を抱いた。一緒に村を発った者が全員、自分の前にいる。彼らが自分の肩を叩く ことは出来ない。ということは……。 「きみはサイトだな! うんそうだ。どうしたね。戻ってきたのかね。というかきみの言った通り、 あのティファニアという女の子、胸が大変にけしからんな! あれはちょっと本物かどうか、 確かめる必要があるとこのギーシュ、考えた。断然同意だろう? なあきみ!」 振り返ったギーシュは絶叫する。 「ぎぃやああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」 それで前を歩くルイズたちは一斉に振り返った。彼らの顔は一瞬で青ざめる。 「な、何よあれ!」 いつの間にか自分たちの背後に、巨大怪獣が出現していた。 いや……あれも『怪獣』と呼んでいいものなのか? 身体の半分ほどもある異常な大きさの 一つ目から、手足が生えているかのような針の振り切れた異形。どう見てもまともな生き物 ではない。その眼が自分たちをジロジロ舐め回していた。 「イヒヒヒヒヒヒヒヒ!」 巨大な目玉そのものの怪物……奇獣ガンQが笑い声のような鳴き声を発した。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9369.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百十九話「こいびとは怪獣」 酔っぱらい怪獣ベロン 登場 最近のルイズの才人に対する目に余るほどの仕打ちのひどさに思うところあり、才人の 一日使用権を発動したシエスタ。その中で才人に惚れ薬を盛ろうと邪な考えが芽生えたものの、 思い直して使用しないことにする。だが、学院に忍び込んできた怪獣ベロンに惚れ薬をワインごと 奪い取られてしまった! その上惚れ薬を飲んだベロンがシエスタに惚れてしまったものだから さぁ大変! シエスタがベロンにさらわれてしまったぞ! どうなる、シエスタ! 「……は……は……はぁ~くっしょぉんっ!」 すっかり日が暮れた頃、シエスタはくしゃみを盛大にぶちかました。何せ今の彼女は、 才人を誘惑していた際のエプロン一枚だけの姿。冬は過ぎたとはいえ、夜はまだまだ 冷え込む時期にこれはきつい。 「うぅ、さ、寒い……。どうしてこんなことにぃ……」 ブルブル震えて歯をカチカチ鳴らすシエスタ。出来ることなら今すぐ学院に帰りたいが、 それは出来ない。何故なら、今の彼女がいる場所は切り立った崖の中腹なのだから。おまけに すぐ側では、ベロンが見張っている。 学院からシエスタを誘拐して消えたベロンは、彼女を逃がさないようにと人気のない山奥にまで 連れてきた。魔法の力など欠片もないシエスタでは、崖から命を持って逃げ出す術などない。 仮に逃げられたとしても、すぐにベロンに捕まってしまうことだろう。 「お、お願いです……。せめて、何か暖を取れるものを下さい……」 とシエスタがベロンに頼み込んだら、ベロンは何を思ったか口からゴウッ! と火炎を吐いた。 「きゃあぁッ!? や、やめて下さい! やっぱりいいですッ!」 身の危険を感じて必死に断るシエスタ。確かに暖は取れるものかもしれないが、そういう意味で 言ったのではない。おまけにアルコール臭かった。 「うぅ……惚れ薬の効果が切れれば解放してくれるかもしれないけど……いつになったら 効果が終わるんだろう……」 シエスタは惚れ薬の効き目が切れるのを期待してベロンを見上げるが、 『好き~♪』 ベロンは未だに目をハートマークにしてシエスタを見つめているので、シエスタはがっくり 肩を落とした。 ジェシカから押しつけられた惚れ薬は粗悪品であり、本来の効果時間は一時間程度のものであった。 だがもう一時間以上経過しているのに、ベロンは元に戻らない。これはベロンが人間の限界をはるかに 上回る酒気を帯びており、大量のアルコールと惚れ薬が結びついてしまって、効果が引き延ばされて いるからだった。 要するに、悪酔いしているのだった。 「ひ~ん、助けて下さいサイトさ~ん……。今どこでどうしてますかぁ~……?」 シエスタはいよいよ半べそをかき、この場にはいない才人に助けを求めたのだった。 その当の才人は、ルイズとタバサとともに、シルフィードに跨ってシエスタの捕まっている 山奥まで駆けつけたところであった。 「ようやく見つけたぜ。何とかして、ベロンからシエスタを奪い返さないとな……」 「全く、あのメイドも手を焼かせるものね」 才人たちはベロンに見つからないように、山林に身を隠しながら崖のシエスタの様子を タバサの遠見の魔法で確かめていた。 シエスタの置いていったジャンボットの腕輪は、現在ルイズが嵌めている。 『大きい私では、怪獣に気づかれずに接近するのは無理だ。すまないが、君たちでシエスタを 助けてやってほしい。どうかよろしく頼む』 「任せてくれ。……って言いたいところだけど……」 才人は、シエスタの側にベロンがひっついていて離れようとしない状況を観察して渋面を作った。 「ああもべったりじゃ、俺たちも見つからずに近づくってのはちょっと無理そうだな……」 生憎、崖の周囲は身を隠せられるようなものが何もない。下手に近づこうものなら、シエスタを 奪われると逆上したベロンに叩き潰されることだろう。 『あんなにシエスタに近かったら、変身して取り押さえるってのも危険だしな……』 ゼロも意見する。 「どうしたものかなぁ……。シエスタの体調も心配だし、早く何とかしたいんだけど……」 「タバサ、あんた何かいい案ない?」 悩む才人。ルイズはタバサに意見を求め、タバサは短く答えた。 「注意を引きつける」 「注意を……? そうか、怪獣の目をシエスタからそらして、その間に救出するって訳ね!」 「ベロンの注意を引くもの……何かないかな……。お酒はここにはないし……」 タバサの意見で、才人は端末からベロンの情報を引き出した。 「あった、これだ! ベロンはお酒の他に、歌と踊りが大好きだって!」 「それってつまり?」 「こっちが歌とともに踊りを踊って、ベロンを夢中にさせてシエスタから引き離すんだ!」 自信満々に言う才人だが、ルイズが一つ問題点を挙げる。 「でも歌と言っても、誰が歌うのよ? わたし、踊りはともかく歌なんて大して知らないわよ」 タバサも同様。しかし才人には解決案が既にあった。 「大丈夫だ、この端末に歌をいくつか録音してある。それをベロンにも聞こえるように、 ボリューム目一杯に流すんだ」 「歌まで流せるのね、その機械」 「ベロンの好きそうなアップテンポな曲だ。ルイズはそれに合わせて、とにかく激しく踊ってくれ。 それでベロンは釣られるはずだ」 才人の提示する作戦にうなずき、端末を預かるルイズ。 「タバサ、ベロンがシエスタから離れたら俺たちの出番だ。シルフィード、ルイズがベロンの 注意を引きつけてる間にシエスタのところまで近づいてくれ」 タバサもシルフィードもうなずくと、いよいよシエスタ救出作戦が実行される。 「よしッ! それじゃあ作戦開始だ!」 まずはルイズが林の陰から飛び出し、わざとベロンに見つかる。 『ん~?』 「怪獣! この歌を聞きなさい!」 叫んだルイズが端末のスイッチを入れて、録音されている歌を流し始めた。 『ふぁ~すときす~からは~じまる~、ふ~たりのこいのひすとり~♪』 「……何かしらこの歌。初めて聞いたはずなのに、どっかで聞いたことあるような気がするわね……」 歌に合わせて、ルイズはベロンにアピールするように身体を大きく動かして踊り出す。 「!!」 すると早速ベロンの視線がルイズの方に釘づけになり、注意が完全に彼女に向いた。惚れ薬で 心を操られても、歌と踊りが好きという点に変わりはなかったようである。 『うお~!』 歌が進むにつれてだんだんと気分が乗ってきたベロンは、ルイズの動きを真似て踊り始める。 「よしよし、いい調子だわ!」 ベロンの反応を見てほくそ笑むルイズ。そして歌が変わるのと合わせて、踊りも別のものに変える。 『あいせいいえすずっと~、きみのそば~にい~る~よ~♪』 踊りながら、ベロンをシエスタの側から離れさせるように移動していくと、ベロンは見事に 引っ掛かってシエスタから離れていく。 「よし、今の内だ!」 ベロンが十分に距離を取ると、隠れていた才人たちが素早くシエスタの元まで飛んでいく。 「シエスタ! 助けに来たぞ!」 「サイトさんッ! あ、ありがとうございますぅ~! 心細かったですぅ~!」 感激したシエスタは思わず才人に飛びついて、ギュウッと彼を抱きしめる。 「お、落ち着いてシエスタ。怪獣がこっちに気がつくかもしれないからさ……」 抱きつかれた才人は、シエスタの色々と柔らかい部分の感触を味わってドギマギした。 ……それによりタバサが、ほんのかすかに眉を吊り上げた。 「と、とにかくその格好じゃ寒いだろ。ほら、これを上から羽織ってさ」 「ありがとうございます。サイトさんは本当にお優しいですね……」 自分のマントをシエスタに着せてあげた才人は、彼女をシルフィードの上に乗せるとすぐに この場から離れようとする。 しかし! その瞬間に、ベロンがこちらを一瞥したのだった! 『!! がおーッ!』 途端にベロンは憤怒。最早歌と踊りは通用しなくなり、シルフィードめがけドスドスと迫ってくる。 「しまった! 気づいちまった!」 焦る才人。しかしシエスタを奪還することは出来た。これならば、才人が変身してももう問題ない。 『才人! こうなりゃ俺たちの出番だぜ!』 「よっしゃ! タバサ、シエスタを頼んだぜ!」 シエスタのことをタバサに託し、才人はシルフィードの背から宙へ飛び降りた。 「デュワッ!」 同時にウルトラゼロアイを装着。光に包まれて変身、巨大化し、シルフィードに迫っていた ベロンの面前にウルトラマンゼロが仁王立ちして登場する。 『んあぁ~!?』 ベロンは己のすぐ前に突然現れたゼロの姿に一瞬たじろいだ。 「テヤッ!」 『ほげ~!』 その隙にゼロはベロンに空手チョップ。先制攻撃をもらったベロンが目を回してひっくり返る。 その光景をバックに、ルイズの元にシルフィードが急接近。彼女の元を回り込みながら タバサがルイズを拾い、シルフィードはこの場より飛び去って避難していく。 『ムキ~!』 シエスタを奪われ、強烈な一打をもらったベロンはカンカンになって、起き上がるとブシュー! と鼻息を蒸気のように吹き出した。 片足で地面をかくと、勢いをつけてゼロに突進していく! 「フッ!」 『おあ~!?』 だがゼロはベロンの突進を簡単にいなした。受け流されたベロンはつんのめりながら、 勢いを殺せずに崖に激突。顔が岩壁にめり込み、落下してきた岩石が脳天に落下する。 『う~ん……!』 岩壁から身体を引き剥がすベロン。今の衝撃で頭の上で星が回っているが、それでも戦うことは やめずに、口から火炎を吐き出した。 『うおッ! 酒くせぇッ!』 ゼロは熱よりアルコール臭いことに驚き、思わず飛びすさる。が、合わせた両手より 消火フォッグを発してベロンの火炎放射を消し止めた。 『おわっぷぅッ!』 フォッグはベロンの顔にもかかり、ベロンはむせて苦しんだ。だがそれでもめげずに、 跳躍してゼロにのしかかろうとする。 「セェアッ!」 しかしゼロはベロンの身体を両手で受け止めた上、勢いを利用して背後に投げ飛ばした。 『おわぁぁぁ~!!』 地面に叩きつけられ、ゴロンゴロン転がるベロンであった。 戦いはほぼ一方的。ベロンは怪獣といえども、戦闘に優れている訳ではないフラフラの 酔っぱらい。到底ゼロに敵うべくもない実力なのだった。 『うぅ~ん……!』 しかしベロンはどれだけやられて、グロッキーになろうともめげずに立ち上がってくる。 その様子に、才人は何だか申し訳ない気分になっていた。 『なぁ、ゼロ……あいつのことも助けられないか? 酒泥棒ではあるけれど、あんなにボロボロに なることはないはずだよ』 ベロンが傷だらけになっても何度も向かってくる理由を、才人は分かっていた。 『あいつがあそこまでするのは、惚れ薬を飲んでおかしくなっちまったからだ。薬の効果を 切らせば、こんな戦いをする必要もないよ』 『ああ、そうだな……』 ゼロはベロンを正気に戻す手段を考えた。まずは、ベロンが迷惑行動に走る最大の理由である、 泥酔状態をどうにかしなければならない。 『……よっし! 一丁やってみるぜ!』 再度ゼロにまっすぐ突っ込んでくるベロン。それに対し、ゼロはウルティメイトブレスレットに 右手を添える。 するとブレスレットが光り、そこから意外な「あるもの」が出現したのだ! その正体とは……。 『えぇぇッ!? ば……バケツぅッ!?』 でかいバケツだった。 『こいつを食らいなッ!』 ゼロはバケツを大きく振り、中身の水を飛ばしてベロンに頭から被せた。 『んあぁぁ~!?』 水を被ったことでベロンの酔いが醒めていき、どこか焦点の合っていなかった目つきも はっきりとしてくる。と同時に、今までに溜まった疲労のためか、すぐにその場にばったりと 倒れ込んで、ぐおーぐおーと高いびきをかき始めた。 これにより、ベロンは完全に無力化された。 『全く、散々暴れた挙句に眠りこけやがって……。幸せな野郎だな、こいつは』 ゼロは肩をすくめて、眠り込んだベロンの身体を頭上高くに抱え上げた。が、才人は別のことを 気に掛けて呆気にとられていた。 『ゼロ……そのブレスレットから、バケツも出てくるんだな……』 『みんなには内緒だぜッ!』 と告げたゼロが天高くに飛び上がり、ベロンを宇宙に送り帰してやったのだった。 「本当にごめんなさいッ!」 シエスタを無事に救出した後、ルイズたちは部屋で彼女から謝罪を受けていた。いつもの メイド服に着替え、大きく頭を下げたシエスタを見やりながら、ルイズはため息を吐く。 「一日使用権は許したけど、そんな手を使っていいとは言ってないわ」 『全くだ。今回のことは、君の邪な考えに対しての天罰だろう』 ジャンボットも咎めると、シエスタはポロポロと泣き出してしまった。 「ほんとにごめんなさい……。こんな風に迷惑がかかるなんて……。わたしに人を好きになる 資格なんてないわ」 『あッ、いや、何も泣かなくとも……』 ジャンボットが慰めようとしたところ、才人が口を挟んだ。 「シエスタ、別に悪くないよ。だって使ってないじゃん。だからワインには注いでなかったんだろ?」 『ああ。惚れ薬とワインが別々だったのは、俺が保証する』 シエスタをかばった才人とゼロだが、シエスタは力なく首を振った。 「いえ……ギリギリまで使うつもりだったから、あの場で手にしてたんです。そもそも薬に 頼ろうとしなかったら、こんな大事にはならなかったのに……」 シエスタが自責していると、ルイズがやれやれと肩をすくめた。 「もういいわ。……サイト、あんた一旦部屋を出てなさい」 「えッ、何で?」 「女の子同士の話があるの! それくらい察しなさいよ、もう!」 グイグイと才人を部屋から追い出すルイズ。 「いいって言うまで、入ってきちゃ駄目だからね」 「わ、分かったよ」 才人が扉を閉じると、ルイズはごそごそとポケットを探り、シエスタに何かを手渡した。 「これ……何ですか?」 それは一見すると、何の変哲もないノートだった。 「読んでごらんなさい」 ノートの表紙を開くシエスタ。中身には、ルイズが才人に対して思ったことが延々と したためられていた。ルイズの秘密日記である。 大半は、如何に才人に冷たくされたのか、どんな風にプライドを傷つけられたのか、何度 期待を裏切られたか……どれだけ才人が鈍感で、自分が思い悩んでいるかを表す内容だった。 「ミス・ヴァリエール……」 「分かる? サイトはね、そのぐらいの鈍感大王なの。だから、変な薬に頼りたくなる気持ちも 何となく分かるわ」 『確かにサイトは、変なところで思い上がって奇行に走ったり、落ち着きなくフラフラしたり するな。私としても、私生活からもう少ししっかりしてもらいたいところだ』 才人は戦いでは勇敢な戦士になっても、まだまだ未成熟なお年頃。その年代の男子というのは 往々にして馬鹿なものだ。おまけに才人は並外れて鈍感で、女心をちっとも理解しておらず、 自惚れやすいのですぐにルイズをやきもきさせるようなことばかりする。調子づきやすいという 点ではルイズに負けず劣らずであった。 「今回のことを反省して、もう惚れ薬になんて手を出さないと誓うのなら水に流すわ。だから 人を好きになる資格がない、だなんてこと言わないの」 寛容に許したルイズに、シエスタはひしっと抱きついた。 「ああ、ミス・ヴァリエール……。わたし、サイトさんがいなかったら、あなたに一生を 捧げてもいいと思いますわ」 「よく言うわよ。でも、わたしも、あんたに何か友情みたいなものを感じるわ」 「貴族のお方に、お友達なんて言ってもらえて……わたしはトリステイン一の幸せ者ですわ」 ルイズとシエスタが仲直りすると、才人は部屋の中に戻される。 「何話してたんだ?」 「それ言ったら、あんたを外に出した意味ないでしょうが」 「そりゃそうか。まぁ、仲直りしたのならそれでいいか」 ルイズとシエスタの様子から、才人はそう結論づけた。 そんな彼の腕に、シエスタががばっと抱きついた。 「サイトさんッ!」 「うわッ! シエスタ!?」 「今日はほんとにごめんなさいッ! このお詫びはまた致しますので!」 「お、お詫びなんていいよ」 「いいえ、それではわたしの気が済みません! それに……サイトさんがよろしいのでしたら、 新婚さんごっこの続きも改めて……」 「続きぃ!?」 シエスタの言動と、胸を押しつけられて顔が崩れる才人にルイズが思わずベッドから腰を浮かした。 「ちょっとぉ!? シエスタ、あんたねぇ、今さっき謝ったばっかりで何言ってくれてるのよ! 反省してないじゃない!」 「もちろん今度は惚れ薬なんて抜きです。正真正銘、わたし自身の魅力で勝負しますから。 それなら水に流してくれるとおっしゃったでしょう?」 「だからって、ちょっとは遠慮ってもんがあるでしょうがッ! サイトあんたも、鼻の下 伸ばしてるんじゃないわよッ! ほんと馬鹿犬ぅぅぅッ!」 「な、何で俺までー!!」 ルイズ、才人、シエスタが相変わらず進歩のない騒ぎを起こしている一方で、畳の隅で タバサが我関せずといった風に本を読み続けていた。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9340.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百六話「暗王からの使い」 毒ガス幻影怪獣バランガス 火炎飛竜ゲルカドン 登場 ミョズニトニルンを背にするタバサは、連続して氷の矢を飛ばして攻撃してくる。才人は横に 転がることでどうにか避ける。 「タバサ! お前これ、一体どういうつもりだよ!」 タバサに攻撃される理由が全く分からない才人が怒鳴るが、返事は氷の矢であった。 「くッ……!」 才人はデルフリンガーで氷の魔法を吸い込むことで防御。再びタバサに問いかける。 「どういう理由があって、俺を攻撃するんだ」 それにタバサは短く答えた。 「命令だから」 「……お前ッ! タバサに何をしたんだ!?」 才人はミョズニトニルンがタバサの精神を操作しているのではないかと考えたが、ミョズニトニルンは 冷笑を浮かべて否定した。 「わたしは何も特別なことはしてやいないさ。さっき言っただろう? この子は、北花壇騎士。 わたしたちの忠実なる番犬だもの」 「番犬?」 「見ものだねえ。シュヴァリエ対シュヴァリエ。わたしの主人が小躍りして喜びそうな組み合わせだよ」 ミョズニトニルンは余裕でも見せつけているのか、その場に留まって才人とタバサの戦いをながめている。 才人は跳躍し、一気に距離を詰めてタバサの杖を切り落とそうとしたが、タバサは魔法で 軽やかに跳ねてかわした。タバサの体術と魔法を組み合わせた動きに才人は翻弄される。 「くそッ、はえぇ……」 「相棒の心が震えてねえからだ」 「そりゃそうだよ! 何で俺があいつと……」 才人が翻弄されているのは、いつもの半分の力も出せていないからでもあった。まさか、 タバサ相手に本気で攻撃するなんてことは出来ない。せいぜい、杖を切り落とそうとする 剣戟を繰り出すのが精一杯。そんな剣の軌道は簡単に読まれてしまうのだ。 何度かの攻防の後、才人とタバサは十五メイルの距離を挟んで対峙した。するとタバサは 中腰にずっしりと構えて、呪文を詠唱し出す。 途端、タバサの魔力が色濃くなり、彼女の周囲に陽炎のように漂い始めた。向こうは勝負を 決めるつもりのようだ。 才人も息を呑み、もう一度タバサに呼びかける。 「タバサ。お前は強いから、手加減できねぇ。……どいてくれ! お前を斬りたくはねぇんだ!」 だが、タバサの呪文は途切れなかった。才人は諦めたように首を振ると、跳躍する。 同時にタバサも杖を振り下ろし、氷の槍が放たれた。 剣と氷の槍が交差。氷の槍は砕け散って、才人は氷の破片の隙間を突き進むが、タバサは もう一本の槍を用意していた。 「一本目は囮か!」 「うぉおおおおおおお!」 才人の絶叫に合わせて左手のルーンが光り、才人は加速。距離を詰めてタバサを突き飛ばし、 あおむけに倒れた小さな身体に馬乗りになってデルフリンガーを振りかぶった。 「杖を捨てろ!」 最後の警告を送るが、それでもタバサは杖を捨てず、氷の槍を突き出す。 才人もやむなく、剣を振り下ろした。 ドシュッ! ……剣と槍が交差した後、タバサは呆然と才人を見つめた。 剣はタバサの顔の横に突き立てられ、槍の先端は才人の脇腹に刺さっていた。 「……どうして?」 口の端から血が垂れる才人に尋ねかけるタバサ。才人は明らかに、剣の切っ先を外したのだ。 苦しそうな顔で才人はつぶやいた。 「だってよ……お前を殺せる訳ねぇだろ……。ルイズを守るためでも……何度も助けてくれたお前を、 犠牲に出来るかよ……」 「……」 タバサの碧眼から、透き通った液体が流れ出たのを才人は見た。 次いで才人を突き飛ばして、杖を振るって風と雪の破片を作り出す。 才人はとどめを刺されるものかと思ったが、違った。雪片は、ミョズニトニルンに向かって 放たれたのだ! 雪片はガーゴイルをズタズタに裂いた。飛び下ろさせられたミョズニトニルンの目が、 すっと冷たく細められた。 「おや……北花壇騎士殿。飼い犬が主人に刃向かおうというの?」 「……勘違いしないで。あなたたちに忠誠を誓ったことなど一度もない」 「ああそう……」 ジロッとタバサを見据えたミョズニトニルンが、すっと腕を上げた。 「主人に牙を剥くような飼い犬は、処分しなくちゃねぇ」 「クアァ――――――!」 それを合図に沈黙を保っていたバランガスが行動を開始。全身の噴出孔から、赤い毒ガスを 噴き出し始めた。 「うッ……!」 タバサは風を起こして毒ガスを散らすが、その間にバランガスがゆっくりと彼女に迫り、 押し潰そうとする。 才人は赤いガスに覆われている状況を利用し、ウルトラゼロアイを装着した! 「デュワッ!」 たちまち巨大なウルトラマンゼロへと変身! ゼロは猛然と飛び出し、タバサに迫るバランガスに 組みついて進行を阻止した。 「セェェイッ!」 「クアァ――――――!」 バランガスは力ずくでゼロを振り払うと、狙いをタバサからゼロに移し、後ろ足で立ち上がって ゼロと対峙した。 ゼロがバランガスを引きつけている間に、タバサはミョズニトニルンを見据えたが、ミョズニトニルンの 方にタバサと事を構える意思はなかった。 「獲物はいただいていくわよ」 そう言った瞬間、上空から巨大な影が降ってきた。 「キュアアアッ!」 全長六十メイル以上もあるトカゲ型の怪獣。腕が四本もあり、その間に皮膜が生えているという 異様な姿で飛行している。 火炎飛竜、ゲルカドン! 『あれは……あいつが噂の怪鳥の正体か!』 才人はそう判断した。羽の差し渡しが百五十メイルというのは大袈裟だが、暗闇で恐怖とともに 大きさも倍化して見えたのだろう。 ミョズニトニルンはルイズを抱え、ゲルカドンの背の上に飛び乗った。ゲルカドンはそのまま浮上し、 上空へと逃れようとする。ルイズを連れていくつもりだ! 『させるかぁッ!』 そんなことはさせないと、ゼロはゲルカドンに向かってゼロスラッガーを投擲する構えを取った。 「クアァ――――――!」 だが背後からバランガスよりぶちかましを食らい、はね飛ばされた。 『ぐわッ! このヤロッ!』 ゼロは先にバランガスを倒そうと、左腕を横に伸ばした。ワイドゼロショットの構えだ。 しかしその瞬間に脇腹に激痛が走り、姿勢が崩れた。 『ぐぅッ……!?』 先ほど、才人はタバサから手痛い負傷をもらってしまった。そのダメージがゼロにも反映されているのだ。 如何に凄腕のゼロでも、重傷を負った状態では満足に戦うことは出来ない。 「クアァ――――――!」 バランガスはそれをいいことに、ゼロに突進して突き飛ばすと、その上にのしかかった。 「クアァ――――――!」 動きを封じ込んだゼロに毒ガスを浴びせる! 『うぐあぁぁぁぁッ!』 この攻撃にはゼロも大いに苦しめられる。カラータイマーが早くも危険を知らせ始めた。 バランガスに足止めされているゼロに代わり、タバサが呼び寄せたシルフィードに跨って ゲルカドンを追いかけ、その前方に回り込んだ。 「ウィンディ・アイシクル!」 目を狙って氷の槍を放ったが、ゲルカドンは口から火炎を吐き出して氷の槍を溶かしてしまい、 タバサとシルフィード自身も狙った。タバサたちはたまらずゲルカドンの側方に逃れる。 そこからゲルカドンの体表にウィンディ・アイシクルを発射するも、突き刺さらずに弾かれてしまう。 「キュアアアッ! キュアアアッ!」 ゲルカドンは周囲に火炎をまき散らしてタバサを執拗に襲う。懸命に立ち向かうタバサだが、 彼女の氷の魔法はゲルカドンに対してあまりにも相性が悪い。その上、才人との戦いで既に精神力を 消耗した状態にある。このままでは勝ち目などない。それでも彼女は抗っている。 タバサがピンチであるが、ゼロはバランガスに下敷きにされたまま切り返すことが出来ないでいた。 やはり、脇腹のダメージが重すぎる。 この状況下で、才人は己のことを深く悔やんでいた。 (くそ、俺は何やってたんだ……。俺がもっとしっかりしてれば、負傷することもなかったはずなのに……!) タバサとの戦いの時に迷いを振り払い切れなかった。覚悟を決めてガンダールヴの全力を 出せていれば、深手を負うことなくタバサを無力化することも出来ていただろうに……。 自分が甘かったせいでこんな事態になってしまった。このままでは、ゼロもタバサまでもが やられてしまうかもしれない。 (何がシュヴァリエだ……。浮かれてた自分が恥ずかしい……!) 悔やむ才人の脳裏によみがえったのは、コルベールの顔。才人が人のために戦う努力をする 決意を固めたのは、大好きだったあの先生の存在もあった。 異邦人に過ぎない自分のことを認め、心配し、困った時にはいつも助けてくれたあの人。 生徒のために立ち上がる、勇敢な心を持ったあの人。過去の罪を悔やみ、世のため人のために 働こうという道の半ばで倒れてしまったあの人。才人はコルベールの生き様に尊敬の念を抱き、 彼のようになりたいとも思っていた。それなのに……。 (俺、コルベール先生のようには半分も……十分の一もなれてねぇよッ……!) 才人が心の中で叫んだ時……はるか上空で、何かが光った。 そして荒れ狂う炎が天から降り注ぎ、ゲルカドンの顔面に炸裂を引き起こした! 「キュアアアッ!」 爆発の衝撃を顔に浴びたゲルカドンはひるみ、タバサへの攻撃の手を止めた。そのお陰で タバサとシルフィードは救われる。 炎はバランガスにも命中し、バランガスも一瞬動きが鈍った 「クアァ――――――!」 『! てぇやぁッ!』 その隙を見逃すゼロではない。力を振り絞ってバランガスを押し上げ、遠くへ投げ飛ばした。 『どぉりゃあぁッ!』 バランガスを払いのけて立ち上がったゼロが見上げたその先の空から……巨大な何かの影が 降下してきた。シュシュシュシュシュ……という聞き慣れない音がそれから聞こえる。 そしてゼロの目に飛び込んできたのは、巨大な翼。差し渡しは、百五十メイルはあろうか。 ゲルカドンよりも更に巨大だ。そして翼の後ろには、プロペラが回っている。胴体はハルケギニアの 空飛ぶフネのようであるが、航空力学の理に適った流線型をしていた。 フネというよりは、才人が駆っていたゼロ戦……『飛行機』によく似た形状であった。 「キュアアアッ!」 ゲルカドンは両目からレーザーを放って反撃したが、翼を持ったフネは巨体に似合わないほどの 速度で旋回、回避した。通常のフネではありえない飛行性能だ! そしてフネから、拡声器か何かを通したようなエコーのかかった声が発せられた。 「“ウルトラマンゼロ、聞こえているでしょうか?”」 それは今の才人が、誰よりも聞きたかった声……コルベールの声であった! 『――えッ!? 何で生きてんの!?』 驚かされて腰を浮かすゼロ。彼が声に反応したことで、コルベールは続いて呼びかけた。 「“こちらで飛行怪獣の動きを止めて隙を作ります。その間に仕留めて下さい”」 それでハッと我に返ったゼロは、首肯することで返事を示した。 フネから一斉に、コルベール謹製のマジックアイテム“空飛ぶヘビくん”――地球で言うところの ミサイルが発射され、ゲルカドンに次々直撃。連続した炸裂を食らってゲルカドンが姿勢を崩した その瞬間を狙い、ゼロが動く。 『ウルトラゼロランス!』 ウルティメイトブレスレットからウルトラゼロランスを出し、ゲルカドンに向けて一直線に投擲! ぐんぐん空を突っ切っていったランスは、見事ゲルカドンの胴体を貫いた。 「キュアアアッ! キュアアアッ!」 ゲルカドンはもがき苦しみ、一気に高度を落としていく。ゼロはそれを目指して駆け出した。 才人の心の沸き上がりによって、気がつけば脇腹の痛みも消えていた。 コルベールが生きていた……。それは才人にとって、これ以上ないほどの喜びであったのだ。 「まずいね」 落下していくゲルカドンの上でミョズニトニルンは舌打ちした。このままでは、確実に自分も捕まる。 やむを得ず、ミョズニトニルンはルイズを放り出してゲルカドンの背を蹴った。ルイズを囮にして、 自分はバランガスの方へ乗り移った。 ゼロは空中に投げ出されたルイズをキャッチ。ゲルカドンは直後に爆散した。 『よっしゃ!』 駆けつけたタバサに取り返したルイズを託すと、バランガスの方へと振り向いた。 「クアァ――――――!」 途端に、バランガスはガスを辺りに充満させて身を隠す。 ゼロは即座にガスの中に飛び込んでバランガスを捕らえようとしたが……いつの間にか、 バランガスの気配は消えていた。 ガスが晴れる。やはり、バランガスの姿は周囲のどこにもなくなっていた。 『逃げやがったな……』 ゼロはひと言つぶやき、変身を解除して才人の姿に戻ったのだった。 激戦の夜が明けた、朝。才人たちを救ったコルベールのフネは、学院から離れた草原に停泊された。 学院の生徒や教師たちが集まり、遠巻きにしながら興味津々に見つめていた。 「合計三つの回転する羽が、このフネに帆走の数倍に達する推進力を与えるのです。あの回転する 羽を動かす動力は……、石炭によって熱せられた水により発生する水蒸気の圧力で得ています。 “水蒸気機関”とわたしは呼んでおります。あの“竜の羽衣”に取りつけられた動力装置と、 似たような設計です」 当のコルベールはフネのことを、オスマンに説明していた。 「すごいフネじゃな……、どうしてあのように巨大な翼を取りつけたのじゃ?」 「東へ行くためです。長い航続距離を稼ぐためには……、なんとしても風石の消費を抑えねばなりません。 あの巨大な翼でフネを浮かす浮力を稼ぐのです。そのためわたしは、このフネを『東方(オストラント)』号と 名づけました」 「いや見事じゃ。軍艦に応用したら、どれだけの空軍力が編成できるか……」 「私はこれを軍艦にするつもりはありません。あくまでこれは“探検船”なのです。使用した技術は 対怪獣用にならば提供の意思はありますが、研究費はミス・ツェルプストーの家から出ておりますし、 これの船籍はあくまでゲルマニアに所属します。トリステイン政府が勝手に軍艦に使用することは、 外交問題になりますでしょう」 コルベールとオスマンのやり取りを、ちょっと離れたところでキュルケ、ギーシュ、モンモランシー、 ルイズ、そして才人が見守っていた。 モンモランシーが、気の抜けた声でつぶやく。 「あの先生、生きてたのね……、というかあんた、どうして“死んだ”なんて嘘ついたのよ」 キュルケが、得意げに髪をかきあげて答える。 「だって……、あの怖い銃士隊のお姉さんを騙さなくちゃいけなかったでしょ? あのままじゃ、 わたしのジャンは殺されてたわ」 「わたしのジャンってどういうこと?」 「いやだわ。彼の名前じゃないの」 「はぁ? 彼の名前?」 「そうよ。素敵な名前……」 うっとりとしたキュルケの声で、モンモランシーは彼女の想いに気づいた。 「あんた……、まさか……」 「そのまさかなの。だってわたしのジャンってば、あんない強いし、その力をひけらかしたりしないし、 物知りだし、終いにはあんなすごいフネまで造っちゃうんだもの!」 「何歳離れてるのよ」 「年の差なんか、何の障害にもならないわね」 「頭薄くない?」 「太陽のようだわ。情熱の象徴ね!」 のろけるキュルケにモンモランシー、ギーシュが呆れ果てる一方で、才人はゼロにこそっと尋ねかけた。 「ゼロ、お前までキュルケの嘘に気づかなかったのか?」 『いやぁ、全然……。だってさぁ、あの状況で生きてるなんて思わないだろ?』 「いやまぁ……うん、そうだね」 うなずく才人。かくいう自分も、雰囲気に呑まれて信じ込んだ。勢いあまって墓まで建てたほどだ。 コルベール本人から苦笑いされて『悪いけれど、後で撤去しておいてくれたまえ』と言われてしまった。 「ミス・ツェルプストー」 「はーい! っていうかキュルケってお呼びになって! と何度言ったらそうしてくれるの! いやだわ! わたしのジャン!」 コルベールに呼ばれ、キュルケはスキップでも踏みかねない勢いで飛んでいった。その背中を 見送ったモンモランシーがぽそりとつぶやく。 「まぁ、収まるべきところに収まったのかしらね」 ギーシュがモンモランシーの肩に手を伸ばした。 「よく分からんが……、ぼくらも収まるべきところに収まろうかね……、あいで」 モンモランシーに手の甲をつままれた。 「痛いじゃないかね!」 「あんた、サイトたちが大変なことになってたとき、何してたの?」 「いやぁ、舞踏会で……」 「騎士隊作ったんなら! ちゃんと働きなさいよ! 隊長でしょ! あんた!」 ぎゃんぎゃん怒鳴られ、ギーシュはしょぼんと肩を落とした。 その傍らで、ルイズは才人に告げた。 「サイト、また助けてくれてありがとう。そして、コルベール先生が生きててよかったわね」 「うん……」 しかし、才人はどこか浮かない表情であった。 「どうしたの? 先生が死んだと思った時、あんなに悲しんでたのに……嬉しくないの?」 「そりゃもちろん嬉しいさ。でももう一つ、気がかりなことがある……だろう?」 聞き返され、ルイズは難しい顔になって首肯した。 「ミョズニトニルンと名乗った女と、タバサのことね……」 二体もの怪獣を操っていたミョズニトニルンという女……何者なのだろうか。しかもタバサと 何らかの関係まであるようであったが……。ガリアのシュヴァリエであるタバサを「自分たちの番犬」と 呼んでいたが……まさか……。 タバサにそのことで問いただしたいところであるが、肝心のタバサの姿が見えなかった。 その頃タバサは、寮塔の自分の部屋で一通の手紙を広げていた。署名も花押もないまっさらな 手紙だが、差出人は痛いほどに分かっていた。 文面にはタバサの好意を非難する言葉は一切書かれていないが、代わりにシュヴァリエの称号を 剥奪する旨と、ラグドリアンの湖畔に蟄居していた母の身柄を押さえたことだけが、たった二行で 述べられていた。 タバサは読み終えた手紙を細かく破り、窓から放った。 後悔などない。どうせ母は囚われの身だった。住むところが変わったというだけのこと。 自分の手で母を取り返す……“約束”の時が、遂にやってきたのだとタバサは思った。 口笛を吹き、シルフィードを呼び寄せると、その背に飛び乗ってひと言短く命じた。 「ガリアへ」 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/sinsougou/pages/466.html
前ページ次ページゼロの使い魔クロス トリステイン魔法学院 ヴェストリの広場 シンが決闘の場所に指定されたそこに到着したときには、ギーシュを取り囲むかのように学生達の壁が出来ていた。 集まった理由はたったの一つ「馬鹿な平民が貴族に決闘をうった」と言う情報を聞いて、暇つぶしにということである。 「逃げずに良く来たね、その事だけは褒めてあげよう!! だが、逃げた方がよかったとすぐに思う事になるよ」 シンの姿を認めたギーシュは、芝居がかった態度を取りながらその手に持った薔薇の形をした杖をシンへと向ける。 「これで最後だ、シエスタに謝れ、そうすれば俺も謝ってやる」 しかし、シンはそんな事は意に介さぬ様子でギーシュに向かってもう一度そう通達する。 「…フフフ、どうやら、本気で一度死んで見なければわからない様だね、ミス・タバサには申し訳ないが、躾けが出来ていなかったと言う事で チャラにして貰おうか!!」 シンの言葉に余計に激怒したギーシュはその杖を振るい、青銅でできた戦乙女のゴーレム―ワルキューレ―を召喚する。 「僕は青銅のギーシュという二つ名を持つメイジだ、だからこのワルキューレで君の相手をさせてもらう、否とは言わないだろうね?」 「別にいいさ、俺だって武器を使うからな」 そんなギーシュの言葉に呼応するかのようにシンもナイフを抜刀して戦闘態勢にはいる。 「鉄のナイフか… 確かに鉄は青銅よりは上だ、だが、平民風情が持てる鉄で僕のワルキューレに勝てると思うな!!」 シンのナイフを見て一瞬目を細めたギーシュだったが、そう叫びながら素手のワルキューレを動かしシンに攻撃を仕掛ける。 ガキィィーーーン!! 「クッ…!!」 シンはその一撃をナイフを盾にするようにして防ぎ、その勢いを利用してワルキューレとの距離をとる。 「耐えたか、少しは出来るようだね」 そう言うとギーシュはまたワルキューレを動かし、ギーシュの指示通りにワルキューレはその拳を振るいシンへと襲い掛かる。 しかし、シンも伊達にエースの証である赤服を着ていたわけではない、ワルキューレの攻撃をギリギリのラインで見切り、回避する。 そしてワルキューレもそんなシンに次々と追撃を仕掛け、反撃の隙を与えないようにと襲い掛かり続ける。 だが、シンは慌てず冷静にワルキューレの攻撃の間合いを読み、その一撃の速度を肌で覚え始め、段々と回避行動にも余裕が出来始めていた。 「えぇい、早くしとめるんだ、ワルキューレ!!」 その事をギーシュも理解したのか、段々とワルキューレを操る動きに焦りの色が見え始め、其れを反映するかのように攻撃だ段々と大振りになってくる。 「貰った!!」 当然、実戦慣れしているシンがその大振りの攻撃によって生じる決定的な隙を見逃すはずは無く。 正面からナイフを深くワルキューレの足の関節に突き入れるとそのまま半円を描くように背後へと抜け、行き掛けの駄賃と言わんばかりにその足に蹴りをいれて離れる。 「フッ、残念だったね、その程度のキックで倒れるほど僕のワルキューレはもろく…」 ズッドォォォン!! 勝ち誇ったようなギーシュの言葉は、皮肉にもワルキューレが地面へと倒れ、自重によって崩壊する音で遮られた。 そう、ナイフによって間接を大きく切り開かれ、そこを蹴られる事で大きく体重を傾けさせられ、其れを支えきれず崩壊したワルキューレの音で。 もしも、ギーシュの言うとおりにシンのナイフが唯の鉄製なら如何に青銅とはいえワルキューレを切り裂くことは出来なかっただろう。 だが、シンの持つサバイバルナイフは唯の鉄ではない、プラントが誇るレアメタルによって作られた特注品のサバイバルナイフだったのだ。 これはシンが特別に持っている訳ではない、アカデミー卒業時に赤服だった学生達に与えられたエースの証という意味での逸品である。 赤服はプラントの誇りをあらわす鎧、レアメタルのナイフはプラントを守り、敵をなぎ払う剣をイメージして渡されるという事である。 そして、そのレアメタルで作られたナイフは並みの硬度と切れ味ではない、MSサイズの刀を用意すれば戦艦さえも切り裂ける程の逸品である。 だからこそ、本来切り裂く事に特化していない筈のナイフですら、鋼鉄ならまだしも、青銅や鉄位ならば十分に切り裂く事が出来るのであった。 そして、ワルキューレがナイフ一本で倒されたという現実を受け入れきれないのか、ギーシュも、周りの貴族たちも呆然と立ち尽くしていたのだが。 「まだ、やるのか?」 シンのそんな言葉により我を取り戻すと、ギーシュは憎悪の、他の貴族たちは畏怖の目でシンへと視線を戻す。 「…フウッ、確かに、ワルキューレが倒された事は認めよう、いささか遊びすぎたようだね、ここからは本気でいかせて貰おうか」 ギーシュはそういうと杖を六度振るい、其れに反応するかのようにワルキューレが六体、新しくシンの目の前に召喚される。 そして、そのワルキューレたちは先ほどのように素手ではなく、接近戦を警戒しているのか全員が槍の様な武器を持っていた。 「僕は最高七体のワルキューレを召喚できる、先ほど君に一体倒されたから残り六体が限界、そして素手では君に無礼だろうから武器も持たせ た…」 ギーシュはそこまで言うと薔薇の杖を顔の真ん前まで持ち上げ、一度その匂い嗅ぐ素振りを見せると、シンへと向かって突き出すように振るう。 「……本気なんだな?」 そのワルキューレ達が持っている武器を見て、シンは冷めた瞳でギーシュをにらみつける。 「勿論さ、使い魔君、勝負再会といこうか!!」 だが、ギーシュはその瞳が表す言葉の意味に気付けないまま、シンに対してそう返した。 そして、その言葉とともにワルキューレ達は各々が持つ槍でシンへと攻撃を開始し、シンも流石に多勢に無勢という様子で必死に回避行動を開始し始めた。 「ふふふ、流石にこの数相手では勝ち目は無いようだね、今なら、土下座して謝れば許してあげても良いよ?」 そう言いながらもギーシュはワルキューレを操り、段々とシンの逃げ場をつぶすようにして包囲し始めていく。 だが、ギーシュは気付くべきであった、ほぼ包囲し終わったというのに、シンが不敵な笑みを浮かべていたという事実に。 それに気付けないままギーシュはシンを包囲し、それでも降伏しようとしないシンに向かって一斉に攻撃を仕掛けたその時だった。 シンは姿勢を低くするとほぼ同時に自分の正面に居るワルキューレの足元へと逃げ込んだのだ。 最初のワルキューレを切り裂いたナイフの切れ味を恐れたギーシュは、必死にシンを倒そうとワルキューレ達を動かす。 足元にもぐりこまれたワルキューレがシンを蹴りだそうと、そして残るワルキューレが槍でシンを攻撃しようとするのだが。 其れこそがシンの狙いだった、即座にシンは自分を蹴りだそうとするワルキューレの背後に回り、槍の攻撃の盾にする。 そして槍もワルキューレも同じ青銅である、その結果攻撃の盾にされたワルキューレと、それに攻撃した青銅の槍全てが破壊される。 その結果ワルキューレの残りは五体、そして槍は破壊されたワルキューレが持っていた一本だけになってしまったのであった。 「ば、馬鹿な… 僕のワルキューレが、同士討ちをするなんて……」 ギーシュは自分のワルキューレが命令をしたわけでもないのに同士討ちしたという事実を認識しきれずに愕然としていた。 何故同士討ちしたのかという説明するならば、其れはたった一言で終わる、ワルキューレがセミオート操縦だったからという事だ。 セミオートは目標を指示してどんな行動をするという命令は出来るが、その後の行動自体はワルキューレ自体の判断で行われる。 そしてセミオートの最大の欠点は、急に出現した障害物等に柔軟に対応しきれないという事と急停止がほぼ不可能であるという事。 その結果「シン」を「槍で攻撃する」という命令を受けたワルキューレは、突然現れた「盾にされた」ワルキューレに反応しきれず攻撃してしまった、という事である。 「之で終わりか? なら、シエスタに謝れ」 淡々とした、だが鋭い視線でギーシュを睨み付けながらのシンの台詞に、ギーシュは完全に恐怖を覚えた。 謝ってしまおうと、元々悪いのは二股をしていた自分だったのだからと恐怖に怯えるギーシュの理性が再び訴えかける。 だが、其れを受け入れる事は出来なかった、ギーシュには、その訴えが正しいものだと理解しながらも、受け入れる事は許されなかった。 「馬鹿に、馬鹿にするな…!! 平民風情が、使い魔風情がこの貴族である僕を馬鹿にするな!!」 そう、彼の歪んだ―ハルケギニアではある意味当然の―貴族としてのプライドが、平民に謝る事など許さなかったのだ。 だが、冷静さを欠いた指揮で倒せるほどシンは易しい相手ではない、じわじわと削り取られるように一体、また一体とワルキューレが撃破されていく。 しかし、シンとて生身の人間である、いくらコーディネイターとはいえ戦闘のための特別な調整を受けていたわけではない。 勢いよく動き回れば息切れもするし疲労もたまる、そしていくら強く握り締めていても掌に汗もかけば衝撃で麻痺だってする。 幾らワルキューレを斬れるとはいえしょせんはナイフ、一度に切り裂ける限界などたかが知れているため何度も何度もきりつける必要がでる。 まして、ギーシュとて馬鹿ではない、最初のワルキューレの撃破された原因をよく理解し足の関節部分をしっかりと守っている。 その結果、一体のワルキューレを倒す為の時間が長くなり、それに比例するようにシンの疲労はどんどんと溜まっていく。 その疲労が極地に達したその時、六体目のワルキューレの間接を切り落とし、戦闘不能にしたのとほぼ同時に足を縺れさせ、その手に握り締めていたナイフを落としてしまう。 シンは急ぎ体勢を立て直してナイフを拾おうとするが、既に限界に近い肉体は言う事を素直には聞いてくれない、そしてその油断を見逃してくれるはずもなく… ドスゥン!! ベキッ、ゴキリィッッッ……!! 「ウッ…クアァアアアアアアアアッッ!!」 「ふぅ… まったく、手間を取らせてくれるね、本当に」 ナイフを掴もうとした左手をワルキューレに強く踏み込まれ、シンの左手の骨は激しい悲鳴をあげる、恐らくは骨が折れ砕けたのだろう。 だが、ギーシュはそんなことは意に介さぬ様子で、憎悪の炎を宿した瞳でシンをにらみつけている。 「平民風情が、この誇り高きトリステイン王家の元帥を父に持つこのギーシュ=ド=グラモンをここまで梃子摺らせるとはね、いっそ賞賛に値す るよ」 ギーシュはそういいながらもワルキューレの足をシンの左手から動かす様子はなく、寧ろその手に持たせた槍をシンの頭に向けようとしている。 だが、シンにはそんなことはどうでもよかった、それ以上に聞き逃せない言葉があったのだ…… 「お前、今、なんて言った… お前の父親が、何だって……?」 「やれやれ、平民は学がないとは思っていたがつい先ほどの言葉まで忘れているのかい?僕の父親は王家に仕える元帥だ、それがどうかしたか い?」 その言葉を聴き、その意味を正確に理解したその時、シンの脳裏で、今までの様な赤い種子ではなく、闇の様な真っ黒な種子が弾けた。 そしてギーシュはシンが「恐怖」を感じていると思い、勝ち誇った顔をしながらそう呟く、だからこそ気づいていなかった、気づく事ができなかった。 急激にシンの瞳から光が失われ、まるで漆黒の虚無の様な色に染まっていく様子を、そして、右手がすばやく動き、ハンドガンを手にしていたという事実を。 パンッッ!! 「う、うわぁああああああああああ!?ぼ、僕の左手が、じ、銃!?」 乾いた音が一度、シンの持つハンドガンから響き、発射された弾丸がギーシュの左手を正確に撃ち抜いた。 「軍人の息子が奪うのかよ、罪もない人達から、力ない人達から…… 全てを奪うのかよ!!!」 動揺しているギーシュを射殺さんばかりに睨み付けながらシンは右手一本でワルキューレを押し返し、その足元から自分の左手を抜き、ギーシュに向かって歩み始める。 「ヒイィッッ!? わ、ワルキューレ!!」 完全に動転したギーシュはワルキューレを操り恐怖を排除しようとし、そしてその主の意を汲んだワルキューレが槍をシンの脇腹に突き刺す。 しかし、脇腹を突き刺されたというのにシンは致命傷以外には興味がないとでもいいたげにその傷を一瞥し、鬱陶しげに槍を引き抜くと再び銃を構え。 自分がワルキューレに刺された所とまったく同じ場所を、ギーシュの脇腹に狙いを定めると引き金を引き、撃ち抜いた事を確認するとゆっくりと歩き始める。 「痛いか?痛いよな、でもな、シエスタにした事に比べたら、お前達が「平民」に与えてきた痛みと比べたらそれくらいなんて事ないだろ?」 まるで周囲全ての貴族に言い聞かせるかのようにシンはそう呟くと痛みで蹲っていたギーシュの頭を傷ついた左手で掴み、右手でハンドガンを突きつける。 「俺はさ、子供のころ戦争に、「強い力」に大切な人達を全部奪われて、それが悲しくて、それが悔しくて軍人になったんだ。 自分みたいな人間をもう作りたくなかったから、一人でも多くの、「罪も無い、力も無い」人達を守りたくて…… だから、だから俺はお前を、軍人の、力ない人を守るべき人間の息子なのに、逆に力ない人を虐げて、全てを奪おうとしているお前のことが許 せない!!」 シンがそう叫び、ハンドガンの引き金を引こうとしたその瞬間、周囲で見ていた貴族達が惨劇を覚悟したその瞬間、唯一動いていた少女がいた。 「空気の鎚よ、彼の者を強く打ち据えよ、エアハンマー!!」 少女のその呪文が響くとほぼ同時にシンは空気の鎚によって激しく殴りつけられ、勢いよく地面へと叩きつけられる。 「タバサ…… あんたも、こいつらとおなじ、かよ……」 シンはその魔法を詠唱した少女を、使い魔であるシンの主人のタバサに向かって憎悪を宿した瞳で睨みつけていたのだが。 「…あなたは、命の重みを知っているはず、だから止めた……それだけ」 シンから一切視線をそらさず、真摯な音色を含んだそのタバサの声を聞くと何故か嬉しそうな顔をし。 「そっか… 俺、また繰り返す所だったのか……… サンキュー、タバサ」 そう呟くと、そのまま倒れたシンの体に襲い掛かってくる疲労の誘いに乗るように、ゆっくりと意識を手放していった。 タバサはそんなシンの横まで歩いていくと、シンを起こさないように左手と脇腹の怪我を癒すために治癒魔法を唱え始める。 「ギーシュ!!」 多くの貴族がタバサとシンが織り成す空気に呑まれ、ただ魅入っていたのだが、金髪ロールの少女がただ一人ギーシュへと走りよった。 「あぁ、モンモランシー」 ギーシュにモンモランシーと呼ばれた少女は即座に自分の持つ秘薬を使いギーシュの傷を癒すと、タバサをキッと睨みつける。 「ミスタバサ!!その使い魔を早く処分して頂戴!!」 「……何故?」 「ギーシュにあれだけのことをした使い魔なんて危険すぎるわ!! 今回はまだよかったものの何時また貴族に牙を向くかわかったものじゃないわ!!」 「大丈夫、彼は獣じゃない」 怒髪天を突く勢いのモンモランシーとそれを流水のように受け流しているタバサ、そして当然そんなやりとりでモンモランシーが納得するはずはなく。 「いいえ、獣以下よ!! 貴族に暴言どころか殺そうとするなんて… いいわ、貴方が処分しないというなら私が処分するわよ!!」 そう宣言すると同時にシンにトドメをささんとその手の杖をシンへと向けたのだが…… 「やめるんだモンモランシー!! これは僕が挑んだ決闘で、僕は負けたんだ、これ以上僕の誇りを、そして彼の誇りを辱めないでくれないか?」 「ギーシュ……」 治療を受け終わったギーシュがそれを静止し、ゆっくりとタバサの方へと歩み寄っていく。 「ミスタバサ、彼のことでひとつだけ聞きたいことがあるんだが…」 「……私にわかることなら」 タバサはギーシュの言葉に反応こそしているが顔はシンに向けたままで、治癒魔法を発動し続けている状態で対応する。 モンモランシーがそんなタバサの態度に激昂しかけるがギーシュは手でそれを制して言葉をつむぎ始める。 「銃を使い、メイジを相手にする場合は治癒が間に合わない心臓か頭を狙うのが基本、そうでなければ魔法で回復されるだけで意味は無い… そして彼のあの腕なら一撃で僕の頭を撃ちぬくこともできたはずだ、だからこそ気になるんだ、なぜ彼は態々僕が攻撃した場所だけを狙って狙撃したのか」 ギーシュの言葉に少し考えるそぶりを見せたタバサだったが、「これは私の意見でしかない」と呟いた後にギーシュの顔を見ながらこう答えた。 「彼は、奪われる痛みを知っている、そして人が一方的に虐げられるのを極度に嫌っている、むしろ虐げる人物を憎んでいる。 だからその痛みを知らない貴方に教えようとした、そして貴方が軍人の息子と知り、憎しみを抑えきれなくなって貴方を殺そうとしていた。」 普段無口な少女にしては珍しいほどの長文の言葉に彼女の親友であるキュルケという少女が激しく驚いていたがそれは今回は特に関係は無く。 その言葉を聴き、シンに投げ掛けられた言葉を吟味していたギーシュだったが、ゆっくりとタバサに向かって言葉をつむぎ始める。 「ミスタバサ、彼が起きたら伝えていただきたい、ギーシュと言う名の男が君に強く謝罪したいと思っていると言うことを」 「わかった… でも、それは貴方がするべきことをしてから」 「あぁ、わかっているよ、シエスタと言うんだったかな? あの少女にしっかり謝罪しないといけないね……」 ギーシュはタバサの言葉に頷きながらそう答えると、ゆっくりと貴族達が集まっている方向へと歩き出した。 自らの敗北と、これから先、シンに使い魔だから、平民だからと言う理由で手を出すことは自分が許さないと言う宣言を行うために…… それから三日後、シンは完全復活し食堂へと戻り「我等が勇者」として料理長マルトー率いる食堂従業員一同に大歓迎を受けることとなる。 シンはそういう特別扱いを嫌って今までどおりでいいと言っていたのだが、逆にそこがいいとマルトーに気に入られてしまった。 そしてそんな光景を見て段々とシンに対する敵意を募らせている少年、サイトの姿があったのだが、それには誰も気づく事ができなかった。 そしてその事が後に大きな引き金となるのだが、そのことを知る人物は今はどこにもいなかった……… おまけのおはなし 実は、シンの傷は一日で完治しており、三日も病床に臥している必要性は無かったのだが…… シン「ん……ここ、は、俺は……」 シエスタ「シンさん!! おきたんですか?もう大丈夫なんですか!!」 意識が覚醒したのかゆっくりと目を開き、顔を上げようとするシンに凄い勢いで駆け寄っていくシエスタ。 しかしシンはシエスタの接近に気づくことは無く、手で目を押さえながら頭を上げていき…… ポ ヨ ン ♪ シン「………ん?」 ムニュウゥッ♪ 突然頭にぶつかった柔らかい感触を疑問に思いながら、一体何なのかとそれを思わず触ってしまったシン。 その脳裏にはシルフィードにヨウカンと呼ばれた少年の「このラッキースケベ」と言う言葉がエンドレスに響いていた。 そう、その言葉が意味するシンの頭にぶつかり、思わず手で触ってしまったものとは……!! シエスタ「そ、その、私、シンさんなら寧ろ望んで御相手しますけど、まだ日も高いですし、い、いえ、いやと言うわけではないんですけど…」 オーバーヒートして暴走寸前のシエスタのたわわに実った胸を鷲づかみのように触っているシンという光景がそこには広がっていた。 100人中99人が見れば絶対に誤解するこの光景を見たとある少女が、当然その例外である一人に入るはずは無く…… タバサ「………シン」 その冷たい氷のような声を聞いたシンはその少女、タバサの方を振り向くと、そこには杖を構えて呪文を詠唱し始めているタバサの姿が……!! タバサ「…病床だから、絶対安静」 そう呟くとタバサはスリープクラウドの魔法を唱え―流石に病人相手に攻撃魔法は控えたらしい― シンの意識を深い眠りへと誘ったのであった。 そして再び眠りだしたシンの姿を見て、シエスタがとても残念そうな顔をしていたのが実に印象的であった。 之だけならまだよかったのだが、実はタバサが唱えたスリープクラウドの威力が本人の想像以上に強かったらしく昏睡状態になってしまったのだ。 その結果、シンの世話を自分がすると狂信的な勢いで迫るシエスタに、それを解除魔法を探すための本を読みながらも即効却下するタバサ。 そして暇なのかシンを時々甘噛みしようとしたり、そのまま飛行しようとするシルフィードと言うとんでもない状態になっていたのだが。 空気が読めなかったギーシュが「自分がシンの世話をする、せめてもの侘びの一つだから」とシンの世話役を買って出てそれをタバサが承認したのだった。 その事でギーシュはシエスタに酷く恨まれたが、目覚めた後、その事実を聞いたシンには泣きながら感謝され、親友と言えるほどに仲良くなったと言う。 前ページ次ページゼロの使い魔クロス